第92話 ユミの覚醒(精神面)

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第92話 ユミの覚醒(精神面)

 翌日。  私はユミとダヴィドを呼び、一定の事情を話すことにした。  昨日あれだけのことがあったが、ユミはとりあえず話は聞くつもりなのだろう。大人しく椅子に座っている。 「2人とも、私について色々と思うことがあるだろうが、これは一先ず伏せておく。ユミは魔法討伐を目的としているな? 」  私はユミにそう訊ねた。 「当然でしょ。邪悪な存在は討伐するべき」  魔王が邪悪なる存在かどうか……。  【教会】がそう言っているからそうだと決めつけているのか。或いはユミ自身が考えたうえでの答えなのか。  判りきっていることだ。前者であろう。 「では何故、魔王が邪悪な存在なのかユミ自身の答えはあるのか? 」  あえて私がそう質問をすると、ユミは何も答えることはなかった。  今まで魔王について深く考えたこともなかったのだろう。私は、とりあえず口先三寸で畳みかけることにした。 「魔王が何かしたか? それとも魔王軍が何か悪さをしたか? 言わせてもらうが今のユミは【教会】が雇った暗殺者だ。そうだろう? 勇者という存在は、何を以て勇者なのかは知らないが少なくとも自分の頭で考えることくらいはするだろう。自分が倒そうとしている存在は本当に邪悪なのかどうかを」  まあ、仮にユミが【教会】に言われたままに今後も動き続けるとしても、私よりも断然マシだろう。そんな私が説教するべきではない。本当は。 「前にカルロが【魔王領】について書かれているこの本をくれたけど、どういう意図があってのことなの? 」 「少しは【魔王領】の歴史などを知っておいて欲しいと思ってね」 「実は、私はこの本をもう最後まで読んでいるの。今の魔王はゾルニオッティ朝王政という名前の種類の魔王なんだよね。ゾルニオッティ朝の先代魔王が暗殺され、その一族も皆殺しにされたはずだったことも。だけど実は1人だけ先代魔王の子供が生き残っていて、そして今の魔王ということも分かった」  マジか……。  私の知らないうちに全部読んでいたのか。 「で、本を読んでも魔王を討伐するつもりだったのか」 「うん。魔王の一族にどのような不幸があったとしても、私たち人間に損害を与える存在なら仕方ないと思って……。カルロの今の話を聞いたらちょっと判らなくなってきたけど」  ちょうどいいタイミングだ。私が天使共から受けた不幸について話すとしよう。大きく分けると2つあるのだが、そのうちの1つを話すことにした。  私と姉は天使共に攫われ、姉は天使共によって殺され、そして天使共に喰われたこと。そして天使共の玩具にされ続けたのだ。  今でも一番鮮明に覚えている。  …………。 「カルロ。昨日はごめんなさい。私は今は貴方に対しては攻撃しないことにした。だけど貴方が邪悪な存在ではないとは限らない。だから今後も私なりに見させてもらうね。カルロのことを」  私の話が一通り終わり、ユミがそう言った。  昨日の一件にも関わらず、ユミはだいぶ落ち着いた様子だ。 「そして魔王についても一旦考えることにする。だけどカルロは何で直ぐに魔王城へ行こうとするの? 何か企んでいるの? そしてマリーアはどうするの? 結局マリーアは魔王軍に所属しているの? 」  次々とユミから疑問を問いかけられる。  くそ! こうなったらやけくそだ。話せることは全て話そう。 「まず、私と魔王が思惑が同じだとは限らない。主に天使共に対してだがな。場合によっては雌雄を決することになるだろう。私と魔王の決闘だ。まあ決闘になった場合、ユミが私の考えに付いてきて来るならユミが魔王と決闘するということも考えているが。それにユミを私の養子にしようと思ってもいる」  ユミを養子にするというのは、実は政治的な理由もある。  私は、いざとなったらユミに託そうと決めたのだ。 「ちょっと待って! 何で私が養子にするの? これまで【教会】の言うことに、ただ従ってきた私でも、貴方の思惑に従って魔王と戦うつもりはない。もし私と魔王と戦うことになったとしても、それは私自身が考えてのことだよ」  成長が著しく早いのか、それとも単にちょろいのか。ユミのこの変わり様には恐怖すら覚えてしまう。  それにしても。  話は長引きそうだ。
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