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第93話 アレックス、自身の考えを再確認する
――――― カルロたちが想定外の事案によって関所で過ごしたたった1日は、ディアナたちが追いつくためには充分であった ――――
(魔王軍スパイのアレックス視点)
俺たちは1日かけて、【ゴルモン部族連合国】と【魔王領】との国境近くまでやって来た。そして、国境近くでディアナの部下3名と合流したのである。
なんと元勇者たちは、あのカルロ、そして謎の多い司祭と戦闘になったのだという。しかし一方的にやられた挙句、100人もいた傭兵団は壊滅したとか。
確かにカルロは、手強い奴に違いないのだろう。
それでも、3人は戦闘後もカルロを尾行したのだという。
「ディアナ校長! 奴らが向かった先はあちらです。あの関所です」
勇者ユミ一行を、尾行していた元勇者の1人がそう言った。
確か名前は……ロンとか言ったか。
「よりにもよって、国防軍の関所を通るは。私の考えが甘かった。あの2人が、国防軍関係者の可能性など全く考えていなかった……。国防軍が関わって来ると面倒になるわ。もう手遅れだと思うけどね」
ディアナがそう言った。
国防軍関係者か。
あえて国防軍関係者という言い方をしているが、要するに国防軍の軍人ということだろう。
それはともかく、わざわざ国防軍の関所を通るとなると、考えられる可能性は限られてくる。事情を知らず偶然にも入ってしまったか、或いはディアナの言うとおり、やはり国防軍関係者だということだ。
後者の場合、恐らくはカルロという男が、国防軍の関係者と見て間違いないだろう。今の今まで、俺もその可能性を考えたことはなかった。
さて、単にカルロという男が国防軍関係者であること自体は構わない。
しかし勇者ユミと共に行動しているという事実。これは大きな問題となる。しかも例の司祭は【教会】の人間でもある。
となると、国防軍が【教会】や勇者と何らかの特別な関係にあるということになる。
もちろん国防軍の戦略に基づき、【教会】や勇者と特別な関係にあるとも言えるが、そうであってもその戦略が魔王ティアレーヌ様を害しないとは限らない。
「あの人が……国防軍関係者……。ということは先の戦争にも征ったのかしら……。それにあの天使に死体の件も……」
マリーアが、小さな声でそう呟く。
彼女は彼女で何か思うところがあるのだろう。確かにあの天使の焼死体などは国防軍の仕業の可能性もあるし、それに天使共との戦争でカルロという男が戦ったかもしれない。
「ひとまず、レミリアの判断を仰ぐ必要があるわね」
「レミリア様ですか? 」
「先日、私も未知の敵がどんなに強くても最終的には≪あれ≫……もとい国防軍が動くから安心だみたいなことを言った。だけど、下手したらその国防軍が敵になるかもしれない。だから、ここは上の判断に任せないと拙いと思う」
と、ディアナが恐ろしいことを言う。
下手を打ち、我々魔王軍に対して、国防軍が敵に回ってしまえば【魔王領】は内戦になってしまうだろう。
少なくとも数の上では、国防軍が圧倒的に魔王軍を上回っている。
そしてあの帝政時代の系譜を持つ国防軍のことだ。仮に国防軍が【魔王領】を掌握した暁には、また帝政が敷かれるのだろうか?
大多数の推測では皇帝は先の戦争で、戦死したものとされている。
唯一国防軍は、皇帝は行方不明だという扱いをしている。国防軍は、あえてそういう扱いをすることで皇帝はあくまで行方不明なだけだと主張できる。
その論理を貫けば、皇帝代理として摂政を置くという措置もとれるのだ。
そうはさせたくない。
皇帝も帝政も【魔王領】には必要ない! 魔王ティアレーヌ様だけが正当な【魔王領】の君主なのだ!
であるからこそ、国防軍の意図を何としてでも確かめる必要がある。
彼らの意図が魔王ティアレーヌ様のご意思と合致すれば上々、でなくても話し合いで妥協できれば御の字だろう。
「ユミ……。国防軍に利用されなければ良いのだけど」
不意に、そうディアナが呟いた。
なるほど。
ユミが魔王ティアレーヌ様に仇為す勇者とは言え、ディアナにとっては血の繋がった妹なのである。なるべく早く保護したいはずだ。
「皆、困っているようだね。私も何かできることがあれば良いけど……」
と、不意にそう言ったのはアリシャだった。
なり行きで俺たちについてきた旅芸人だ。俺の真横に居るにも関わらず、すっかりその存在を忘れていた。
「旅芸人のお前に何ができるんだよ。国防軍相手に一芝居でもするつもりか? 」
俺がそう言うと、ちょっとムカッとしたのか、彼女は睨め付けてきた。
そして言う。
「そうね。私になりに考えてみるね」
と。
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