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「被験者3名の体温、血圧、脈拍、全て正常です」 私の隣で菊田が言った。 ガラスの向こう側でカプセルに入り、眠る3人の被験者を見つめる。 「菊田くんは人が死んだらどうなると思う」 「人が死ぬとタンパク質の塊が残るだけです」 菊田は冷静に答える。 「魂はどうなる」 私は続けて質問した。 「所長は幽霊とかを信じているんですか。」 菊田は鼻で笑い、続けた。 「人は脳からの電気信号により、筋肉を動かしたり、物事を記憶したりしています。魂など最初から存在しません。現に今回の研究でも、脳に決まった電磁波を流せば皆、一様に同じ風景を見て同じような体験をしています。本人達は実体験をしている気持ちでしょうが、実際は記憶を頼りにただ夢を見ているだけ。ただの自己満足に過ぎません」 「相変わらずドライだな」 私は笑った。 「現実主義なだけです」 菊田は笑いもせずに言った。 たしかに菊田が言うとおり、今回の研究により決まった周波の電磁波を脳に流せば同じ景色を見れることがわかった。 だが、そのの中での行動はコントロールできない。 人は電気信号で思考や行動をしているのは事実だ。 では、その指示は何がそうさせているのだろう。 私はそれが「魂」だと思っている。 目には見えない魂が集う場所がある。 あの島である。 我々は特殊な電磁波を流しているだけだ。 だが、見える景色は一緒、ということはこの電磁波が魂を刺激して異空間と繋がるのではないか。 まだ科学的根拠はない。 だから、こうして私は被験者を募集している。 死者に会えるというタレコミがマスコミに流れ、参加するため300万円が必要だったことも重なり、周りからは「オカルト」だの「詐欺」だの叩かれた。 それでも定員を大きく越える応募者が集まり、やむを得なく抽選を行った。 「私は電磁波により見れるの謎を解明したく、この研究室で働いています。」 菊田が手元の資料を見ながら話始めた。 「正直、所長のおっしゃる『異空間』とやらはオカルトの一種だと考えてますので賛同できません。しかし、被験者は皆、満足そうな顔をして実験を終わります。死んだ人の夢を見て幸せなのでしょうか」 私は、自分の手を見つめる。 6歳の娘を抱き上げた感覚を思い出す。 抱き上げたときのズシリと重い感覚、嬉しそうな娘の笑顔、今も手に残る体温、その全てが本当にであったのだろうか。 「例え夢や幻であっても、逢いに行きたい人がいるのだよ」 私は自分の手を見つめたまま答えた。 菊田はなにか言おうとこちらを向いたが、私の頬を流れる一筋の涙を見て、何も言わなかった。 プシューという空気音のあとカプセルがゆっくり開き始めた。 「まもなく実験が終わります、ご準備を」 菊田はそう言い残すと部屋を出ていった。 私は胸ポケットに入った娘の写真を取り出し、しばらく見つめた後、もう一度胸ポケットに入れた。 涙を拭い、私も部屋を後にした。
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