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「そういえばお父さんが言ってたわ。
そろそろ鴨ちゃん達、田んぼに出してもいい頃じゃないかって。」
お代わりの冷茶を差し出しながら言う雪。
「ん、そうか。来週にはいいかと思ってたが、それなら午後にでも離してみる。
親父さんに御礼言っておいてくれ。」
「いえいえ、うちとしても大型機械の使い辛い休耕田で合鴨農法してくれてるんだもの。大助かりよ。」
「そうか?そうならばいいが・・・。」
少しトーンの落ちる俺。
病気により相次いで両親を失って早十年。
当時農業高校の学生であった俺には多額となってしまった治療費、弟妹達の学費生活費なぞ払うあてもなく先祖代々引き継いできた田畑や土地を売り払わざるを得なかった。
それでもなんとかバイトで食いつなぎ、高校を卒業することはできたものの、ただただ漠然と親の後を継いで農業に勤しもうと思っていた俺には他に生計をたてるあてもなく途方に暮れていたのだ。
そんなときに声をかけてくれたのが、隣にいる幼馴染み、雪の親父さん。
大規模に農業をやっていた親父さんだが、肝心の先祖代々の田畑は機械化するのには手狭であり、またあまりにも山奥であるため持て余していたのだ。そこで俺に白羽の矢が立ったというわけである。
つまり一昔前で言えば俺は雪の親父さんの小作人ということになるわけだが彼らは偉ぶるでもなく平等以上に家族のように接してきてくれた。彼らのおかげで弟妹たちも無事進学させることができ、巣だたせることもできたのだ。恩義は重く、俺は彼らに一生頭が上がらないだろう。
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