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「毎度聞いているが、お父さんの方は手伝わなくていいのか?」
「ふふ、本当に毎日同じこと聞くわね。
いいのよ、あっちは大型トラクターもあるし、バイトさんもたくさんいるのだから。
その点こっちはねぇ?これだから手伝ってこいと言われてるの。」
言いながら周囲を見渡す雪。
山深い土地。獣の声がかすかに響く。
道路すら整備されていない未舗装の道をどん詰まりまできた終点に我が家と雪の家はある。とは言うものの雪の本宅はここから二十キロ山道を下った街にあるのだが、俺を手伝うために昔一族で住んでいた古民家に一人で住んでくれているのだ。
「そうか、いつもありがとう。申し訳ない。」
「いーえー、私は好きでここにいるのよ。わかってるでしょ?」
「あ、ああ。」
雪に下から覗きこまれドギマギしてしまう俺。
朴念仁と度々言われてきた俺にすらわかる整った容姿。若い女性だけあり日焼けにも気を使っているらしく白く透き通るような肌。真っ黒に零れそうな瞳。艶やかな唇。
そのあまりの美しさに思わず顔を背ける。
「お、お前はせっかく綺麗なのだからこんな山奥にいないで街で嫁の貰い手でも見つけた方が良いのではないか?」
返事がない。
なにやら気配の変化に気づき、振り向くとそこにあったものは美しい頬を膨らます彼女の姿。
「な、なんだ。どうした。」
「・・・わかってないなぁ。もう!」
ぷんと立ち上がり走り去っていく彼女の背中を呆然と見送る。
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