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もう随分と慣れた道を歩き、店の前に立った。
“Life”という看板。いつもは通りすがるだけで見ていなかった店の名前に胸が高鳴った。
木を基調としたドアを開くと、チリン、と軽い鐘の音が耳を鳴らす。
「いらっしゃいませ」
店の雰囲気にピッタリな、ロングヘアが良く似合う女性の店員さんに声を掛けられた。
「あの、えっと…」
もう幾度も練習していたはずの言葉が出てこない。緊張と焦りで頭がいっぱいになっていた。
そして、頭を過ぎる声。
【似合わないよ】
きっとこの女性も思っているはずだ。その日私はスーツ姿。それも髪は大分短かったし、到底あんなワンピースを着るような身分ではない。
「…お客様?」
「あ、す、すみません」
「もしかして、随分と前からよくうちの店の前を通っていらっしゃいませんでした?」
「え」
少し首を傾げてそう尋ねられ、詰まった音が喉から出る。私は高校3年生から今日までの5年間、一度もココを訪れてはいないからだ。
「あの時は制服を着てらしたのに、もう社会に溶け込んでいますね」
なんて、優しく彼女が笑うから。
私はハッキリと言うことにした。
「このワンピースが欲しいんです」
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