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店員さんは驚きもせず、また笑った。
「とっても似合うと思います」
その笑顔と、言葉が、自分をどれだけ救ったか、きっと店員さんは知るはずもない。
ショーケースからそのワンピースを取り出した彼女は私の手元へと持ってきてくれた。
「こちら一点物でして、新しいものがご準備できないのですが大丈夫ですか?」
「あ、はい、コレがいいんです」
「ありがとうございます、ではあちらで」
そのままレジへと向かった。
現代にそぐわないような古びたレジスターに金額を打ち込む店員さんが、そっと目の前に1枚の真っ白な冊子を差し出してきた。
その表紙に書かれた英語。
『The future starts today, not tomorrow.』
「これ、うちの店のコンセプトなんです」
よく見るとパンフレットになっているようだった。ペラペラとめくると中身もまた、白を基調としたデザインの洋服がズラっと掲載されている。
英語…わからないな。
チラッと前を向くと、それを察したかのように店員さんが口を開く。
「『未来は今日始まる。明日始まるんじゃない。』って意味です。今日、未来をはじめようとしてくれたお客様にピッタリですね」
「…ありがとうございます」
その時、それ以上に感謝を伝える術が分からなかった。けど、ありがとうだけは何としてでも伝えたかった、それだけだ。
未来をはじめる初日を思い出しながら、私はワンピースに足を突っ込んだ。
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