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昨日の夜。
金曜日ということで東京も随分賑やかだった。飲み会へ向かう人、カラオケでオールする人、バーでしっぽりと飲む人、恋人と熱い夜を過ごす人。
化粧品店でひとり、リップを見つめる人。
はじめる用意はもう揃っていて、あとはリップだけだった。元々唇の色は薄い方ではないから、別に色付きリップでも良かったのかもしれない。
周りを見ると、華やかなOLらしき女性や可愛らしい高校生ばかりで、スーツ姿の自分がとても浮いて見えた。
思わず、踵を返そうとした、その時。
「お探しですか?」
その声に左を向くと、ショートカットのよく似合う綺麗な女性の店員さんがこちらを向いて笑っていた。
「ああ、えっと」
「今、こちらのリップがオススメですよ」
「え?」
「お客様、ずっと悩んでいたので思わず声を掛けてしまいました」
すみません、と申し訳なさそうに眉を下げる姿がとても美しかった。到底、私には表現できないくらい、輝いて見えた。
「おかしいと思いませんか?」
「…?」
「…似合い、ますかね」
「はい、とってもお似合いだと思います」
迷うことなく、店員さんはそう言った。
だから私も、迷うことなく言葉にしよう、とその時初めて思ったのだ。
「赤くて、存在感のある素敵なリップが欲しいです」
「うーん…では、こちらかこちらですね」
手元に出された2つの赤いリップ。片方は少しオレンジがかった赤で、もうひとつは真紅のような、吸い込まれそうな赤。
「…コレを」
手に取った、真紅のような濃い赤リップに手を差し伸べた。
「ではお会計いたしますね」
ニコッと笑った店員さんの後ろをついて行く。
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