あかいリップ

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「あの」 「はい?」 会計の準備中、思わず疑問が口から出ていた。 「疑問に思わないんですか?私がリップを使う、という事に対して」 女性らしさの欠片もない、背格好も大分大きくて、顔だってメイクもしていない私に。なんで声を掛けてくれたのかが分からなかった。 「お客様は、美しくなりたいと思われていませんでしたか?」 「え?」 「あのリップを眺めているお客様が、美しくなりたいと思っているように見えたので」 「…はい、そうだと、思います」 俯きがちになりながらも、そう答えると、店員さんはやっぱり綺麗に笑った。 「美しくなりたいと思う人のことを、私はどこも疑問に思いませんよ」 泣いてしまいそうに、いや、たぶん心の中ではずっと泣いていた。また、此処に来ようと、彼女に会いに来ようとそう思った。
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