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悪いことは、魅力的だ。
特に現実ではできないようなひどいことを――ゲームの中だけでは実現できるというのなら、尚更に。
私は亜希子に言われたとおりアプリをインストールすると、帰宅したところで起動させてみることにしたのである。そのアプリ――“報復ゲーム”を。
『やり方は簡単。嫌いな相手の名前とパーソナルデータを打ち込んで、OK押すだけ!私もやったのよ。パート先の、ムカつく客のババアの名前知ってたからさー。そいつの名前入れてさー』
「うっそ……」
私は眼を見開いた。ゲームをインストールして現れた、真っ白な箱のような空間。メニューを開いて、あの新人の名前――小渕瑞穂を入力し、ざっと外見データや年齢を入れた途端。真っ白な空間の中に、本物そっくりの“小渕瑞穂”が現れたのである。
まるで実写のようにリアルだった。彼女は白い空間の中で、訳が分からないといったように周囲を見回している。怖がりな彼女らしく、既にしっかり泣き顔が出来上がっているのがまた面白い。
すぐに、画面上にメッセージが現れた。
『このゲームでは、あらゆる“拷問”や“暴力”のメニューが揃っております。貴方はこの白い箱に閉じ込めた相手に対して、あらゆる暴力を行うことができます。日頃の鬱憤を、是非とも逃げられない相手にぶつけて発散してしまいましょう。勿論、現実のその相手に影響は出ないので、どれだけひどい拷問をしても貴方が逮捕されるようなことはありません』
なるほど、これは楽しそうだ、と思う私。正直、あんな簡単なデータを入力しただけで、瑞穂の姿形が完璧に再現されるというのは恐ろしい気がしないでもなかったが――別に彼女のデータがどこぞに流出していようが、そんなのは自分に関係ないことである。
スマホの中の忌々しい女を、好きなだけ虐め抜くことができる――それも合法的に。これは良いストレス発散になりそうだ。
『ただし、殺害してしまうとゲームは終了となってしまいます。長くストレス発散をしたい場合は、メニューの強さや相手の体調に充分気をつけて拷問を行ってください』
――確かに、即死させたんじゃつまらないものね。よーし。
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