かえる、かえる。

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 *** 『どうだった、あのゲーム?面白いでしょ』  亜希子からそんなLANEが着たのは、翌日のこと。丁度仕事帰りの電車の中でのことだった。スーパーのパートで働く彼女は、私よりもだいぶ前に仕事が終わっている。今はもう自宅にいるのかもしれない。私は嬉々として返信することにした。 『最高!リアルすぎてちょっと怖いけどね。本物のあの女を甚振ってるみたいですっごいストレス発散になるわー。よくあんな凄いの見つけてきたわね』 『でしょでしょ?私も、ちょっと前に親戚の若い子に教えてもらったの。一部の界隈で大流行してるみたい。あの子情報通だったから、もっと他にも面白いアプリ教えてもらえばよかったなーて後悔してるとこ。まさか、事故で死んじゃうとは思ってなかったし。まだ二十代だったのにの毒だわ』 『あら、それはご愁傷様ね』  とりとめのない会話をしながら、ちらり、と起動状態のままにしてあるアプリを確認する。一晩汚水に漬けられた彼女は、水の中でぐったりとしていた。暑さの中、嫌でも汚れた水を飲まなければならず。しかも、足がぎりぎり着く水位であるせいで横になって眠ることもできない。一晩放置しただけで、相当消耗してしまったようだった。  一日で少しやりすぎてしまったかもしれない、と反省する私である。さすがに、こんなに早く死なれてゲームオーバーになっては面白くないのだ。ならば今日は食べ物と睡眠をきちんと与えて、様子を見るのも悪くはないかもしれない。 『相手に何してもいいって言われたら、かえって迷っちゃうわよね。亜希子はゲームで、どんな風に相手を虐めたの?私は血が出ないのがいいかなーと思って、水責めからスタートさせたんだけど』  案外諸刃の剣だったのかもしれない、と私は思う。彼女は二ヶ月以上相手を生きながらえさせてから殺害したというので、上手な拷問の秘訣があるなら聞いておきたいと思ったのだ。生かさず、殺さず。ストレス発散の素敵なサンドバックは、長持ちさせるに限るのである。 『そうねー、私は逆かな。ちょっと血が出るくらいなら、人間はそうそう死なないもの。だから、まずは手足の爪を全部剥がすところからスタートしたかなー』 『うっわ、亜希子ってばえげつない((((;゚Д゚))))』 『雅恵に言われたくないわよー楽しんでるくせにー!(*≧∀≦*)』  私達は残酷な会話を、平然とLANE上で続ける。  誰も私達を罪に問うことなどできない。私達はただゲームをしているだけ。実際に、その日もその翌日もそのさらに翌日も小渕瑞穂は普通に会社に来たのだから、いくらリアルに見えても現実の彼女に影響がないのは確かなことだったのだろう。ならば、罪悪感を覚えることなど何もない。あるはずがないのである。  そう、思っていたのだ。――この約三ヶ月後までは。
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