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かえる、かえる。
あの有名な、ピノキオのアニメ映画。
悪い大人たちの遊園地のアトラクションとして登場するものの中に、印象深い存在がある。ズバリ、何を壊しても許される部屋、だ。
その部屋の中にある家具や道具、どれをどれだけ壊しても問題がないのだという。誘われた子供達は、いくらでも破壊できるし、大人にも叱られない快感に溺れていく。コストの問題さえクリアできるならばきっと、現代に存在しても人気が出るアトラクションなのだろう。ストレスを抱えがちな、現代社会であるならば尚更に。
犯罪行為や、そうでなくても常識や倫理に反する行為をしてはいけない。人々はそれをわかっているし、ルールを守るからこそこの世界は秩序を保たれているのだ。誰もがそれを理解している。しかし同じだけ、ルールに縛られた世界を窮屈に感じている者も少なからずいるだろう。
“悪いこと”は、魅力的だ。
人に叱られそうなこと、警察に捕まりそうなこと。いくらやっても咎められない、叱られないとしたら?普段むしゃくしゃしている分、何かにぶつけても全く責められることがないとしたらどうだろう。
そしてそれに、罪悪感を抱く余地がないのだとしたら。
「ストレス、溜まってるんでしょ。雅恵」
久しぶりに会った友人の亜希子は、ニヤニヤしながらそう告げてきた。私と同い年のはずなので、彼女ももう四十を過ぎている。にもかかわらず、二十代で通りそうなほど若々しく見えるのは何故だろう。元々美人であったし、化粧も上手かったから誤魔化しもきくのかもしれないが――それにしたって不公平だと私は思う。
こっちは反抗期の息子と家のことをほとんど手伝わない旦那、会社の無能な部下の合わせ技でほとほと疲れきり、自らの身を構う余裕もないというのに。
「……まあ、溜まってるわね。家も外も馬鹿しかいないんだもの。久しぶりに会ったあんたに愚痴ばっかり言うのもなんだけどさ。どいつもこいつも空気を読むってスキル足らなすぎ。ただでさえ旦那のムカついているところに、会社に入ってきた新人が使えなさすぎて余計腹立たしいっていうかなんていうか」
「あー、そういう時期か。新入社員のお世話は大変よね。私はパートしかしたことないから、あんまり教育係とかはやらないんだけど。無能なんだ?」
「無能っていうか、ちょっと叱るとすぐしょんぼりして私が悪者みたいになるのが腹立たしいっていうか。最近の若い子は打たれ弱くて全然ダメ。それでいて、男の気を引くことだけは熱心なんだから。無駄に短いスカートとか派手な靴とか化粧とかに時間かけてる暇あるんなら、入力業務くらいさっさと覚えなさいよって言いたいわ」
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