prologue

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 吸血鬼に、大事な家族と生まれ故郷を奪われたのが十五年前。    命の恩人であり、育ての親でもあり、また吸血鬼狩人として生きる術を教えてくれた師匠でもあった大事な人を奪われたのが、十年前。    協会に属し、祓魔師として同じ組織に属す大事な仲間や部下をすべて奪われたのが、五年前。    その後、組織を抜け、人と接するのを避けるべく、当てのないただひたすら逃げるだけの放浪の旅に出て五年、自分が訪れた村や街がすべて消されている事実に気が付いたのが一年前。    それから、逃げるのをやめ、命を懸けた迎撃および道連れにすべく、協会の伝手により与えられた、人里から離れた深い森の奥にある寂びれた協会を自らの終焉の地に定め、現在に至る。    もうどこにも属せない、どこにも帰れない、どこにも行かない。  もう誰も巻き込まない、誰も犠牲にさせない、誰にも関わらない、誰にも頼らない、誰にも助けを求めない。  ただ自分一人で、全てに決着をつけなければならない。  どれだけ嫌でも、全てを投げ出したくなるほど苦しくても、心が砕けそうになるほど辛くても、深い悲しみに押しつぶされそうになっても、息ができなくなりそうなくらい絶望していても、それはもはや呪いのように、死者より託された無数の「生きろ」という言葉が男を生かす。  白銀の髪と薄氷の瞳を持つ、死が付きまとう男の歩いた道の後ろには、屍の山が積みあがる。  これは、災いを招く、災厄の神父と祓魔師の間で囁かれていた、男の物語。 ***
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