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「アンヌが! アンヌの具合が急に悪くなったんだ! 熱もあるし、頭も朦朧としてるみてえで、声をかけても返事もろくにできねえんだよ!」
尋ねる神父に、リュカは息吐く暇もなく改めてその状況を叫ぶように伝える。
「この前言ってた魔法修士ってやつを紹介してくれ! そいつに頼んで、魔導書の魔術でなんとかアンヌを助けてもらうんだ! どうせ医者は街に行かなきゃいねえし、その医者も見放したような病だ。もう魔導書の力で治してもらうしかねえんだよ! なあ! 頼むから教えてくれよ! どこに行けば魔法修士に会えるんだよ!?」
「アンヌが? ……そうか。魔法修士はこのジュオーディンの司教座があるメンデの修道院へ行けばおるが、行ったところで追い返されるだけじゃ。先日も話したように、個人的な理由で魔導書を使う許可はそう簡単に下りるものではない。それに、遠くメンデの街まで行くには時間がかかりすぎるしの」
懸命なリュカの訴えを聞き、その背中に負われたアンヌの顔を凝視した神父はすべてを理解するが、相変わらずの厳しい表情を作ったまま、その首をゆっくりと横に振る。
「悪いことは言わん。そのように無謀な行いをするよりも神の御業を頼るのじゃ。少しでもアンヌが楽になるよう、そこの長椅子に寝かせるとよい。ちょうど今から夕刻の祈祷を行うところ。わしとともに病気の平癒を心より神に祈ろう。すべては神の御はからい、まだ天に召されるその時でなければ、きっとアンヌの病も癒されはようぞ」
そして、まるで説教をするかのようにして、リュカをそう説得するのだった。
「神に、祈れ……だと? ……アンヌがこんな状態だってのにか!? 俺だって、何度も何度も神様に祈ったさ! でも、その神様とやらは一向にアンヌの病を治しちゃあくれなかった! なのに、今さら祈って何になるってんだよ!」
だが、神父のその言葉を耳にしたリュカはひどい絶望感を味わうとともに、強い怒りが沸々と込み上げてきて大声で激昂する。
「…コホ、コホ……お兄ちゃん……なんだかここ…コホ……コホ……とっても寒いよう……早く、おうち……コホ、コホ……帰ろう……」
そんなリュカの悲壮感に満たされた心をさらに追い込むかのようにして、異様に熱い体温を感じさせている背中のアンヌが、咳き込みながらもか細い声でまたも譫言のように呟いた。
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