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「アンヌ! 大丈夫か? もう少しの辛抱だぞ? すぐに家帰れるからな」
……クツっ! 悔しいが、確かにメンデまでなんて行ってたら、アンヌの体がもつかわからねえ……行っても頼みを聞いてくれる保証はねえし、ここはヤブでも隣町の医者んとこ連れて行くしかねえか……。
顔を少しだけ後へ向け、瀕死の妹を元気づけるように声をかけながら、リュカは最善の道を必死で考える。
……医者か……そうだ。医者っていやあ、森の中にもう一人似たようなのがいたな……しかも、密かに囁かれてる噂じゃあ、街のヤブ医者なんかよりすこぶる評判もいい……。
すると、彼の脳裏に、やはり先日、ジャンポール神父か口にしていたあの〝森の魔女〟のことが不意に浮かんできた。
「ヘン! もう、てめえら役立たずの神や坊主になんか頼らねえ! そんなに祈りてえなら、てめだえだけでいつまでも無駄に祈っていやがれ!」
その考えに思い至るや、リュカはそんな悪態を神父に言い放ち、早々に踵を返すと教会を後にしてゆく。
「……あ、これ! またなんと罰当たりなことを! そのような冒涜的なことを口にしては治る病も治らなくなってしまうぞーっ!」
赤黒い色をした夕闇がよりいっそう深まる中、相変わらずの神父の怒号にその背中を見送られながら、教会から続く村の一本道をアンヌとともにリュカは駆け抜けた。
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