冬の夜をきみと(社会人一年目:クリスマス)

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◇◇◇  雪は朝から止むことなく、一日中降り続いている。  やっと一息ついた夕方には、凍える程の寒さに身体はすっかり冷え切っていた。  佐川さんが買ってくれた缶珈琲を一口飲めば、身体の隅々にまで温かさが染み渡る。 「今日はヤバイくらいに寒いな」 「マジでやばいです。俺、寒いのクッソ苦手なんですよ」  本気を籠めて言葉を返すと、佐川さんは声を出して笑った。 「香取の出身て神奈川だったか」 「あー、育ちは川崎ですけど、沖縄生まれでチビガキの頃まではあっちいたんで」 「へぇ、そうなのか。そう言われてみればお前って目鼻立ちはっきりしてるし、南国のイケメン顔だもんな」  思わず珈琲を噴出しそうになり、軽くむせた。 「なんすかそれ」 「俺はお前みたいな顔好きなんだよ。ほら、自分がうっすい顔してるからさ」  一重で垂れ目気味の目を更に細めて笑う佐川さんに、俺からしたら佐川さんんの方がイケメンですよと言葉を返せば、今度は佐川さんがむせかえった。  時刻は十七時過ぎ。  佐川さんは一気に缶を空けると、再びハンドルを握り車を発進させた。 「これから事務所帰って書類片して……うん、早く上がれそうだな。香取の約束は何時から?」 「え? あー、一応二十時ですけど……向こうの仕事次第なんで」  俺は質問に答えながら、昼間の電話を思い出していた。  ふて腐れた声で電話にでたハルは、とにかく佐川さんの存在と教育係という立場が気に入らないらしく、理不尽な文句をぶぅぶぅ言うだけ言った後、今度は切ない声で、早く会いたい抱きしめたい、と繰り返した。  聞いてるこっちが恥ずかしくなって、早々に電話を切ったけども。  要約すると、仕事が忙しくて早く上がれるか雲行きが怪しいとの事だった。  やれやれ。 (あいつ大丈夫かな、情緒不安定だろ……) 「時間あるなら少し俺に付き合えよ」  突然佐川さんの声が耳に入り慌てて顔を向けると、前を向いたままもう一度言った。 「クリスマスだし」  佐川さんは、予定ないのかな?  とぼんやり考えながら、はいと答えた。
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