第4話 首狩り魔人と線路上の死体たち

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 どれほどの時間を要したか、終着点と思われる古いひしゃげた鉄の扉の前にたどり着いた。ここが落盤事故の現場かもしれない。  赤い錆の浮いた扉の前とその先の4メートル四方の小さな部屋の中には十数体を超える死体が折り重なっていた。古く白骨化した死体、まだ生々しく血が未だ流れ出ているように見える死体。形状は様々だが、どちらを向いても死体ばかりだ。凝固した血と腐った肉と乾いた骨にまみれている。  この生々しさは都市伝説がもたらした犠牲者の、現実の死体だろう。きっとこれが行方不明者の正体だ。確かにそれは目の前にあると感じる。  幸いというか多くはうつぶせで、生々しい死体にはこれまで見た多くの死体と同じく陥没したりつぶれている部位が多いようだった。  ここまでくるとまるでマネキンのようでひどく現実感がなくなって来る。日常性を失わせるほどの異常。都市伝説の限界点。あるいは俺の鼻や感覚はすでに麻痺して正気を失いかけているのかもしれない。  そう思った時。ホームのほうからジャリという音が聞こえた。  とうとう『首狩り魔人』に追いつかれた。  俺は恐怖に身をすくむ。ゆっくりと一歩ずつ重いものを担いで足を踏みしめるような音。音の重さからはある程度の体格を想起させた。女性であるアンリではありえないその重い足音は、俺よりはるかに強靭な体躯を思い起こさせる。  これまでアンリの勝利を疑っていなかったが小柄なアンリが勝てるだろうか。そんな不安が初めてよぎる。俺の意識の中で都市伝説の存在感が増している。額の傷がズキズキと痛む。順調に正気を失いかけている合図だ。  急いで扉の内側に逃げ込み、その影に隠れる。アンリと会うまでに正気を失うわけにはいかないが、このままでは『首狩り魔人』に殺される。  一縷の望みをかけるしかない。俺は半分正気を失いながらもより大きな恐怖に飛び込んだ。
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