プロローグ

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プロローグ

「あれは、俺が何歳の時だったんだろう・・・」 白砂の海岸で、たまたま、出会った同い年位の男の子。今では、その姿はおぼろげだ。 言葉をかわすでもなく、すぐに、意気投合して、波打ち際を、まるで、風を起こすかのごとく、走った。 真っ青な空に立体的に浮かびあがった入道雲、太陽はじりじりと二人を焼きつけた。 大人の目から離れた岩場に着くと、腰を下ろし、彼方に見える一艘の船を、二人静かに眺めていた。 いつしか、波の音しか聞こえない世界で、二人、見つめ合い、無言の約束を交わしたかのように、神聖な空気が二人を包んだ。 まさか、岸壁に打ちつける波が徐々に、高さをつけ、二人をあっと言う間に飲み込んでしまうとは、考えも及ばずにいた・・・ ザバッ 勢いよく打ち上げた波は幼い男児達を、大口を開けた海の中へ引きずり込むと、まるで、洗濯でもしているように、一回転、二回転、三回転と二人の身体を容赦なく、掻き回した。回転しながら、まるで、水槽のエアーポンプのように、立ち上がる泡だけが目に見えた。 無抵抗の身体が波に押され、背中は、強く岩に打ちつけられた。 「痛い・・・あ~死ぬかもしれない・・・」 死にたくない一心で、俺は、無我夢中で、掴んだ何かによって、幸運にも、砂浜に打ち上げられた。 俺の命を繋ぎとめたのは、あの日、出会った男の子の華奢な足。 砂浜で目覚めた時には、まるで、美し人魚のように、打ち上げられた姿の男の子が居た。背中には、岩で切れたであろう深い一線の傷。 俺は、溺れて、苦しいのか、この光景が自分を狂おしくしているのか、分からず、早まる鼓動を落ち着かせようと砂浜に突っ伏していた。 親父の、俺を探す声がして、後ろから、その子の両親と見られる人達が駆け寄ってきた。 あの日の記憶はそこまで。 夢だったかもしれないと、思うこともあったが、まるで、刻みこまれた二人の証のように、俺の背中にも、あの子と同じ深い傷痕が存在していた。
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