夢みさせて

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夢みさせて

一年経って、二年経って、日々、僕らは生まれ、創られる。 あれから、数年の月日が流れた・・ 彗は、ドイツから、何年ぶりかに日本へ帰って来た。結局、大学を中途退学とし、向こうで苦学の末にドイツでは最高の資格であるピアノマイスターの称号を習得した。 彗が、調律から製作まで、全ての作業を手掛ける技術を得るにあたり、工業高校での学びが存分に生かされた。 ここ、横浜に戻り、工房を持つ。今回の帰国は、ドイツでずっと温めてきた夢を叶えるための、一歩でもあった。 そして、もう一つの夢。もう一度、あの人に会いたい。 何処に居ても、心の声があの人の名前を叫んでいた。 消えない残像。いつかの君を、ずっと恨んでいたのに・・・ 内なる想いに抗えず、今でも、君を求めて、過去の傷を越えていくよ。 まだ、君があの歌を忘れないでいてくれるなら・・・ 彗は、元町に降り立つと、新緑の空気を吸い込んだ。爽やかな風が、トレンチコートの裾を巻き上げる。 風に後押しされ、足は、そのまま、中華街へと向かった。 懐かしい風景。身体はまだ、あの人までの道のりを覚えている。 初夏の日差しが眩しく、木々を青々と照らす。 緊張と興奮が入り交じった気持ちから、速まる足取りで、店の前にたどり着くと、彗は呆然と立ち尽くした。 かって、笑福亭があった場所は、更地になり、店は跡形もなく、消えていた。
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