「ロマン」を感じる恋心

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「さてと、最短で半年、遅くても一年ですね」 篤は都内のあるジムで、筋トレをしながら言った。程よい筋肉が男らしく、同じ男でも憧れざるを得ない身体つきだ。 篤は一旦休み、プロテインを飲みながら、目の前の男にもそれを渡す。 「俺の仕事はここまで。あとはあの女が待っている限り、ですよ」 実のところ、篤は神山と結婚する気なんて毛頭ない。これは篤にとって、仕事だ。淡々とこなすべき仕事でしかない。 ニュージーランドもパイロットも真っ赤な嘘。女が騙されてくれたのは篤のもとに事前情報があったからに過ぎない。 要は篤の仕事は、人に「」を売ることだ。何?人聞きが悪いな、別に結婚詐欺師とかではないよ。 「ロマン」を売るんだ。 僕にも神山にも、「ロマン」を売ってくれた。そのかわり料金はかなり高額だがな。神山にも散々色々奢ってもらったらしい、羨ましい奴め。 「痩せたら、神山さんにモテますよ、中学生以来の初恋の人のアイドルになれますね、一緒に頑張っていきましょうか」 篤…いや、僕のジムトレーナーはそう言って、僕にダイエットプランを渡してきた。 「はい!僕、神山と結婚するために頑張ります!」 ここのジムは、太った人が痩せるためのダイエットジム。どうしても痩せられない人が入る、最後の砦。料金はかなりの値段、高額だ。 「恋の力って偉大ですねぇ」 ジムトレーナーが苦笑しながら言った。それは苦笑というよりは嘲笑に近かったかもしれない。 今まで何をやっても痩せようとさえしなかった僕は、やっとこのジムトレーナーに出会い変わった。 痩せれば、どんな夢が見られるか、この人が教えてくれたのだ。 『ダイエット、始めました』とでも家の扉の前に貼っておこうではないか。そうすればおのずとダイエットを意識する。 決意を固めた僕は顔を赤く染めて、荒い息で叫んだ。 「上山篤!今日限りでデブを卒業します!!」
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