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いつも元気な範子おばちゃんが、泣きそうに俯いている。お父さんは範子おばちゃんに手を伸ばそうとしたけれど、少し悩んで手を引っ込めてしまった。
「でも、籍は入ってるのよ。なのに…。いいわ。私が一緒に行ってあげるから!」
「やめて、真波。ことを大きくしたくない。いいんだよ」
「範子ちゃん」
「私のせいで、家を出て、会社を継がないで、婚約を破棄して…。恨まれるのは、当然なんだ」
「でもっ」
「あんたたちが、そんなこと気にしなくていいの。それより、雪子ちゃんかわいそうでしょ?もっと世話してあげなよ!育児放棄しないで!」
範子おばちゃんにそう言われて、お母さんは唇を噛んで俯いた。
「そんなつもりはないよ。雪子をちゃんと育てたいし、大事な大事な娘だもん。それでも、亜樹さんを思うと、…辛いから」
「真波…」
「今は、時間が…必要なの」
お母さんたちの話は難しくて、やっぱり私にはわからない。私がドアの陰で固まっていると、滋が来て私の手を掴むと、
「難しい話は、聞かなくていいんだよ。俺もわかんないから」
と言って、何故か泣きそうになっている。
子供にはわからない、難しい話。
難しいから、分からなくて、寂しくなる。
寂しくなるから、不安になる。
その気持ちを分かり合えるのは、私と滋だけなんだろう。
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