第2章 大人の事情

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でもある日。 お母さんは亜樹さんのご両親と偶然会って、孫が生まれたことを伝えると、ご両親は驚いたそうけれど、その場でとても喜んでよかったら孫を連れて帰ってきて欲しい、と願ったという。そのことを亜樹さんに伝えて欲しいと言われて、お母さんはすぐ携帯電話で亜樹さんに伝えると、亜樹さんは急いでバイクを走らせて実家に向かい、不運なことにその途中で事故にあって亡くなってしまったんだ。 「電話で伝えるべきじゃなかった。会って伝えるべきだったの。だけど、すぐにでも伝えたくて焦ったのよ、私。喜んで欲しかったけ。なのに、まさか…事故に遭うなんて。これは、私のせい。ごめんね、滋くん。私のせいで、亜樹さんは亡くなったのよ。私は落ち込む範子ちゃんを見て、自分たちだけ幸せになるなんて嫌だった。次郎くんも私をフォローしてくれたけど、責められた方が楽だったわ」 お母さんはそう言ってポロポロと涙を溢すと、私は黙って話を聞いて俯いて、滋はそんな私の肩を抱き寄せてくれた。 本当は、範子おばちゃんと亜樹さん、そして滋も、みんなが一緒に暮らせる家を、と思って今の家を作ったらしいけど。料理研究会の人達も地方が出てくる人が多いから、ここに住んでもいいし。など、色々言ってるからどれが本当かは分からない。お母さんは、心の奥で思ってることを、違う言葉で誤魔化す癖がある。お父さんは私にそう話してくれた。
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