304人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
向こうの壁側に設置されている横長のベンチを見つけた。
あ、すわれるとこ?
私はそのベンチに歩み寄ると、紺色の制服を着たお兄さんを見た。一見怖そうで、機嫌悪そうな人。
その手には、缶コーヒー。
もちろん、当時3歳くらいの私には、缶コーヒーなんてものも知らない。彼は足を開いて、だらしなく座って、気怠そうに目を瞑っていた。
「なんだろうなぁ、あれ…」
なんか、独り言を呟いているようだ。
「おにいちゃん、なにのんでるの?」
なんだか話してみたくなって、話しかけてみた。私はポニーテールに赤いリボンを結んで、薄いピンクのフリルのドレスに白い靴を履いていた。お兄さんは一瞬驚いて最初私を見つめてから、左右見回してみて、また私を見つめた。まるで、座敷童子でも見たような驚いた目をしている。
「お前、…1人か?こんなとこで」
お兄さんが答えてくれると、私は嬉しくなって少し笑った。
「パパも、ママも、すぐそこにいるの。ねぇ。なにのんでるの?」
「え?あぁ、これはコーヒー」
お兄さんは自分が持っている缶コーヒーを見て答えると、私はその缶コーヒーをもっとよく見てみたくて、お兄さんの足に両手を乗せて、缶コーヒーを覗き込んでみた。
「おいしーの?それ」
全然おいしそうな匂いはしない。
「…おいしーよ。でも、お前にはまだ早いだろ。おまえ、いくつ?」
「あたし?3さい。ふゆがおわったら、4さいになるの!」
「3さい…っ。なんだ?喉渇いたのか?」
お兄さんは少し笑ってまた聞いてくれると、私は大きく頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!