第1章 奇跡は思い出の中に…

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向こうの壁側に設置されている横長のベンチを見つけた。 あ、すわれるとこ? 私はそのベンチに歩み寄ると、紺色の制服(ブレザー)を着たお兄さんを見た。一見怖そうで、機嫌悪そうな人。 その手には、缶コーヒー。 もちろん、当時3歳くらいの私には、缶コーヒーなんてものも知らない。彼は足を開いて、だらしなく座って、気怠そうに目を瞑っていた。 「なんだろうなぁ、あれ…」 なんか、独り言を呟いているようだ。 「おにいちゃん、なにのんでるの?」 なんだか話してみたくなって、話しかけてみた。私はポニーテールに赤いリボンを結んで、薄いピンクのフリルのドレスに白い靴を履いていた。お兄さんは一瞬驚いて最初私を見つめてから、左右見回してみて、また私を見つめた。まるで、座敷童子でも見たような驚いた目をしている。 「お前、…1人か?こんなとこで」 お兄さんが答えてくれると、私は嬉しくなって少し笑った。 「パパも、ママも、すぐそこにいるの。ねぇ。なにのんでるの?」 「え?あぁ、これはコーヒー」 お兄さんは自分が持っている缶コーヒーを見て答えると、私はその缶コーヒーをもっとよく見てみたくて、お兄さんの足に両手を乗せて、缶コーヒーを覗き込んでみた。 「おいしーの?それ」 全然おいしそうな匂いはしない。 「…おいしーよ。でも、お前にはまだ早いだろ。おまえ、いくつ?」 「あたし?3さい。ふゆがおわったら、4さいになるの!」 「3さい…っ。なんだ?喉渇いたのか?」 お兄さんは少し笑ってまた聞いてくれると、私は大きく頷いた。
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