304人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
「雪子ちゃん、お迎えきたわよー」
保育園の教室で保育士に呼ばれて振り返ると、そこにいたのはお母さんではなかった。
「雪子ちゃん、帰るよ!」
家から見える距離のところに住んでいる範子おばちゃんだ。長い髪を後ろで一つに結んで、いつも白いブラウスに黒のパンツ。お迎えに来る時は、素足にサンダルだ。
私の後ろから、
「ほら。ボーッとすんなよ。ユキコ。かえるぞ」
とまるで本当の『お兄ちゃん」のようにそう言って、シゲルは私のバッグとリュックサックを持ってきてくれた。
「今夜もさ、真波たち遅いんだって。うちに泊まってきな」
「おばちゃん。いつもすみません」
私はリュックを背負ってそう言ってペコリと頭を下げると、おばちゃんはニコッと笑って私の頭をガシガシと撫で回す。
気がついたら、それがもう日課になっていた。週末には、やっとお父さんもお母さんも揃うけど、お母さんはそれでも時々忙しくて呼び出されて出かけてしまう。お父さんは私を膝に乗せて、絵本を読んでくれたり、子供が見るような番組を一緒に見てくれたり。
でも、本当はそれでも、ものすごく寂しいんだ。
お母さんは忙しそうに歩き回って、テレビではよく見かけるけど、実際に会ったのはいつだったのかさえ、わからなくなる時があった。
最初のコメントを投稿しよう!