第2章 大人の事情

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でも、我儘になれない。 我儘を言っちゃ駄目だ。困らせちゃうから。私が黙っていれば、何も起こらないし。疑問に思っても、追及もせず、おとなしくしていよう。泣いたりしても、だめ。困らせちゃ、だめだ。 何故そう思うようになってしまったのかは、わからない。でも、いつの間にかそう思うようになっていた。 それは家だけじゃなくて、外でもそうだった。 保育園であまり話さない私がからかわれたり、意地悪をされても、私は反論も反撃もしなかった。滋は私の一つ年上で、気がつけば庇ってくれたり、守ってくれていたけど、滋はどの女の子にも優しいから、私は友達として、兄としての滋は好きだけど、それ以上の感情はなかった。 私だけに優しいなら、私の初恋と呼べるような感情は、もっと膨れたのかもしれない。滋は分け隔てることなく、いろんな女の子に優しい。 だから、私は滋に恋をすることはできなかったんだ。私だけに優しくて、私だけを甘えさせてくれるような人。どこかにいる? 何処にいるの? * 「三回忌、行かないのか?」 うちで、範子おばちゃんが面倒を見てくれる時もある。その時は、私は滋と一緒に部屋で寝る。 ある日の夜。 私は夜中に目が覚めて、ゆっくりと階段を降りてリビングを覗き込むと、そこには範子おばちゃんとお父さんとお母さんがいて、三人は並んでソファに座っていた。 「三回忌、行っても、中に入れてもらえないし。許されてないんだもん。なら、行かない。別の日にする」
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