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双眸から脳天まで突き抜ける強烈な衝撃。
顔中の血液が沸騰するように熱く、皮膚が火傷で爛れていくような感覚。
颯は、身動きもとれず呻き声をあげて蹲み込んだ。
「ぐぁ……ぁぅ」
上下左右の感覚も失われ、視界が回っては歪んでいく。血管を焼き切る勢いの熱に瞼がピクピクと痙攣していた。
少しでも抵抗してやろう、と顔を強く抑えつけていた右腕も、重力に任せて落下する。
そのまま軸を失った颯の体が、硬い床に力なく転がった。しかし、今やその衝撃すらも知覚できない。代わりに、両目を襲う強大な力がその勢いを増すばかりだ。
「う……くぁ……」
思考は放棄されても、こびりついた記憶はあった。次に訪れるものを、颯は既に知っていた。
溢れて止まらない涙と汗をだらだらと流しながら、無意識にジタバタと体を揺らす颯。そこには、考えなど何一つ存在しない。あるのは、反射的に叩き起こされた、ただの生存本能だけだ。
防がないと。防がなければ。
脳を駆け回る警報音が颯の体を操っていた。
――ッ……?
ふいに脱力する体。
痛みと入れ代わって訪れるのは、どこまでも広がる赤。赤。赤。
颯の耳は、
本能が止めろと叫ぶのを、
続いて血の気の引く音を、
聞いた。
今、自分が何をしているのか。何がしたいのか。混濁した意識の中で何もわからず、颯は身動ぐ。
しかし、猛烈な痛みに翻弄された颯の体は、もう指の先一つ動かせないほど疲弊し虚脱しきっていた。
なす術もなく塗り替えられていく視界。せめてもの抵抗を、と薄ら開いていた瞼を固く閉じるが、その純黒の世界までも赤黒い色に浸食されていく。
無理だ。もう助からない。抵抗もせずに、このまま身を任せることしかできない。もう、何も、できない。
忍耐、希望、勇気。颯を支える精神全てを破壊し尽くし押し寄せるのは、諦め、絶望。それだけだ。
颯の心は、もはや空虚だった。恐怖を抱くことすらせず、ぼんやりと赤の濁流を眺める。
地べたに転がされたまま硬直していた体から、わずかに残されていた力が抜けていく。目と口はだらしなく開き、両手のひらは天を向いた。
眼球だけを動かし、無機質な天井を見上げた双眼の端を、赤い波がかすめる。
――あぁ、これで終わりだ。
諦念を宿した直後、朧げな景色が真紅に覆われた。
颯の心は、待ち望んだ開放を目の前に、湧き上がる恐怖の裏側で淡い安堵に包まれる。
――ごめん徹。帰れなかったよ……。
送り出してくれた親友への悔悟の念を最後に、颯の意識は深い闇の底へ落ちていった。
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