プロローグ

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 校舎内へ続く扉を開け放し、長い階段を何段も飛ばして降りていく。急き込む自分を、先の見えない薄墨色の闇がせせら笑っているように見えた。  ――気味悪い、気味悪い、なんなんだよこれ。  ゆっくり状況を整理する余裕など、とうに残されてはいなかった。校舎の様子を気に留めようとも思えない。今できるのは、言うことを聞かない足腰を無理矢理に立たせ、ひたすら出口を目指すことだけだ。  早い鼓動と忙しない呼吸が耳の奥にうるさく響く。焦燥しきって使い物にならない頭から、一握り程度に残された思考力まで奪われそうだ。  「……っ!」  短く漏れた悲鳴と一瞬の浮遊感。直後、強い衝撃が全身を襲った。限界を迎えていた足がついにほつれ、数段を転がり落ちたのだ。全身に釘を打ち付けたような鋭い痛みが走り、必死に歯をくいしばる。  それでも、考えるより先に、立ち上がろうと右手が動いていた。錆びて鈍りきった頭の代わりに彼を突き動かすのは、早く逃げろ、と叫ぶ心だけだ。  刹那、ゴツ、ゴツ、と響き渡る、重い石を引きずるような音を耳が拾った。    鳴り止まない警報が脳を揺らす。恐怖に歯がガタガタとぶつかり合い、両足がすくんだ。  今まで沸騰していたはずの意地も叫びも鳴りを潜め、血の気が引いていく。  「くそ……ッ」  金縛りにあったように硬直していく体に鞭を入れようとしたその時――ふと、音が止んだ。    視界の左端を、真っ黒い影が掠めた。こんな時ほど脳からの命令は心を無視する。気づいた時には、無慈悲に、見開かれた眼球だけが左側へと動いていた。  捉えたのは、二つの黒い穴。  影の顔にも見える場所にあいたソレは、颯の視線を離さず、  少しずつ  少しずつ  吸い込んで――
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