わがままミーナ

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【 1 】 「ねえ、ミーナ。ケイタくんと同じグループになれると思う?」  うん、きっとなれるよ。なんて答えは期待してない。だってミーナがしゃべるときは「にゃーん」だったり、あまえた声で「みー」だったり。きょうはどっちかな? 大きめのにぼしをあげたから、「みー」のほうだな。  チラッと予想はしたものの、目の前にいるまっ白なネコは、にぼしをかむのにいそがしい。カシュカシュとかわいた音だけが口からもれていた。 「もう。食べてばっかりいないで、ちょっとはわたしの話も聞いてよー」  ウッドデッキから鼻先を上げないミーナにむけて、つっかけの底を鳴らした。いつもおやつをくれる女の子に知らんぷりはさすがにまずいと思ったのか、ミーナはきゅるんと頭を右にかたむけて、わたしのことを見つめた。「ごめんね」と言うみたいに「みー」とひとつ鳴いて。かわいいよなあ。 「にゃー」よりも「みー」と鳴くことが多いからミーナ。わたしが勝手につけた名前。たぶんノラネコ。首輪はないし、鈴もつけてない。だけどいつ見てもつやつやの毛は、入道雲のてっぺんみたいにまぶしい。まっ白だ。きっといろんな人に世話してもらってるんだろうな。わたしがお小遣いでにぼしを買うぐらいなんだから、ミーナのかわいらしさにやられてしまってる人は多いはずだ。  人をこんな気分にするなんて、きっとネコの魔法なんだと思う。ネコって不思議な生き物だって世間から認められてるんだし、魔法ぐらい余裕で使えそう。目の前を黒猫が横切ると悪いことが起こるなんて言われてたり、魔女のパートナーだったり。妖怪だと猫又がいる。化け猫なんて完全にオバケあつかいの言い方まである。魔力とか妖力とか持ってそうだよね。  ミーナはとってもかわいいネコだから、オバケなんて呼んじゃかわいそう。  それにわたしは、白いネコは幸運の使いだと思ってるし。  ほっそりしてて、どこかいたずらっ子のような顔だちのミーナ。自由気ままなんだけど、たまに見せるあまえた仕草が愛らしくてたまらない。  わたしがごちゃごちゃ考えてることなんて知らないで、ミーナはじっとすわって首すじをなでさせてくれた。あんまりにも手触りがよくて顔をよせたら、日なたのにおいがした。じゃあミーナ、もう一度質問するね。 「ケイタくんといっしょに、自由行動できると思う?」  夏休み前に一泊二日の修学旅行がある。行く先はナーラ。大仏さまとシカで有名なところ。あとは知らない。歴史の授業でいろいろ習ったにもかかわらず、わたしの記憶は深い深い湖の底に封印されているのです、はい。  予定では、大仏殿見学のあとはシカのたくさんいるナーラ公園で、グループごとの自由時間になる。女子と男子の合同グループで活動。ここであこがれのケイタくんといっしょのグループになって、写真をとったり、シカにせんべいをあげたりしたい。六年生になったときから、ずっとそう願ってる。  ひそかな野望を叶えるために、寝る前には必ずお祈りをささげる。でもこの願い、無理そうなんだよなあ。なんせ強力な競争相手がいるから。  グループ分けがあるのは、修学旅行の直前だと思う。カオル子は七月に入ってすぐだと予想した。  女子同士のグループは、五月のいまの段階ですでにぼんやり決まってる。ふだんから仲のいい子同士が「いっしょに修学旅行いこうねー」と交わす口約束をしょっちゅう耳にする。
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