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わたしだって、本気でネコに相談してるわけじゃない。ただ、だまって自分の中にとじこめておくとどうにも不安で、せっかくひねり出した作戦もくじけてやめてしまいそうだから、ミーナに聞いてほしいのだ。
去年の夏ころから、ふらっとうちの小さな庭、そう、本当にネコのひたいみたいな庭にやってくるようになったこのまっ白なネコに、わたしはカオル子にしか言ったことのない秘密の作戦をうちあけた。
「トモミとわたしが入れかわることって、できるかな?」
ミーナはもちろん、できるともできないとも言わない。それでもいいの。ミーナのきれいな金色の目を見てるだけで、胸の奥に積み重なった心配の量がへっていく。
「もうつかれちゃったよ。アカネにゴマするの」
本音が出ちゃった。もうイヤなの。グループに入れてもらうために、いつもアカネの顔色をうかがって話をするのが。それ以外にも、宿題を見せてあげたり、シャーペンの芯をあげたり、いいにおいのする消しゴムをあげたり。
アカネは背が高くて、キャーキャーうるさくて、くやしいけど顔もわりとかわいくて、存在感抜群。女子バスケットボール部の三人で、いつもかたまってる。
もしクラスでグループのランキングをつけるなら、アカネのグループは間違いなく一軍。見た目も成績もなにもかもが普通のわたしには、不釣り合いなグループだ。
サッカー部のエース、ケイタくんの男子グループもやっぱり一軍。男子と女子のグループがペアになるとすると、一軍同士がひっつくとわたしは考えてる。
アカネのグループは固定メンバーが三人。上手くはりついてるトモミを入れて四人。修学旅行の手引きには、四人でひとつのグループを作るようにと書かれていた。トモミはバスケ部じゃないから、わたしがアカネのお気に入りになれば、とって代わることができると信じている。
「修学旅行のグループ分けなんてなかったら、こんなことで悩まなくてもいいのにねー」
「でもグループ分けって機会でもなけりゃ、ケイタといっしょに遊ぶことなんてないんでしょ」
うひゃ、なに? いま、だれがしゃべった? 目の前にはミーナしかいない。
「ケイタもトモミも知らないから、よくわからないなー」
しゃべった、ミーナがしゃべった。ネコなのに、きちんと背すじをのばしておすわりしてるのもへんだけど、しゃべってるほうが何倍もへん。
「オバケだ……」
「ひどいなー。ユカリが質問したんだよ」
ウッドデッキにおしりをずるずるこすりつけて、後ろにさがるわたしにおかまいなしで言葉が続く。
「ユカリにはお世話になってるから、ちゃんと答えたいの。ちょっと時間ちょうだい」
それでいいよね? といったふうにふんにゃり口もとをゆるめた。どう見ても、ミーナの顔は笑ってる。
あわわわ……。ぎょうてんしてても、おしりはあとずさりをやめない。ミーナの笑顔に目を奪われてさがってるうちに、窓の段差で手をひっかけてしまった。
つっかい棒がはずれたみたいにわたしは一気にひっくり返った。足はウッドデッキ、体は家の中。窓枠のレールが背中に食いこんで小さく悲鳴をあげた。
「大丈夫?」
わたしをのぞきこむ白い顔。どんどん近づく金色の目がキラキラ光る。ミーナのしめった鼻先がそっとわたしのほほに触れた。一瞬のひんやり。すぐあとに、ざらり。ほほをなめてくれた。温かでやわらかなやすりをかけられたみたいだった。
「あした、楽しみにしてて」
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