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遥奈はレジ前にある、ヒサカキの束を手に取った。そしてブリキのバケツに入れられた、向日葵を見つめる。
「あの……仏花に向日葵って、変ですか?」
「うん? 明るくて人気あるわよ」
矢野は向日葵をバケツから抜き取り、遥奈が持つヒサカキに添えた。黄色い向日葵と緑のヒサカキは、互いの色を引き立てていた。
「ね」
「いいですね。じゃあ、この向日葵も一緒にお願いします」
「ありがとう。……ああ、この向日葵、白いのもあるのよ」
矢野はいそいそと店の奥に行き、誰かに指示を出した。
「ねえ、そこの白い向日葵を何本か持って、こっち来て」
遥奈はぼんやりと矢野の帰りを待った。
……今日、矢野さん以外にも、お店に誰かいたんだ。
「ほら遥奈ちゃん。白い向日葵はどう? きれいじゃない?」
矢野が白い向日葵と一緒に、ひとりの従業員を連れて戻ってきた。
遥奈は矢野のほうを向いて、目をしばたかせた。
白い向日葵を抱えていたのは、線が細い男性だった。Tシャツの襟ぐりから見える鎖骨は男性らしいが、手足は細く、肌は夏を忘れるほど白い。
遥奈は彼を凝視した。……一瞬、男性か女性かわからなかったため。
「この子はね、甥の宏樹」
男性は遥奈と目が合うと、穏やかにほほえみ、頭をさげた。
「はじめまして」
「あ、いえ」
遥奈はぎこちない会釈をした。
「いつもバイトに来ている子がね、バイクで転んじゃって……。急遽、甥っ子に手伝ってもらっているの。農学部の一年だからか、土に抵抗ないし」
「お盆が終わるまでの、アルバイトです」
宏樹は細い声をしていた。遥奈は彼の声を、もっと聞きたいと思った。
「……で、遥奈ちゃん、どうする?」
「え?」
「白い向日葵はいる? いらない?」
「えっと」
遥奈が戸惑っていると、宏樹が間に入った。
「黄色い向日葵だけでもきれいですが、白い向日葵を一緒に入れても、華やかでいいと思いますよ」
「……り、両方とも買います」
遥奈は花が包まれるまで、宏樹が作業するのを見ていた。
そして遥奈は、ヒサカキと二色の向日葵を抱えて『花小箱』を出た。
ウィンドウに映る自分を見て、横髪が乱れているのが、とても残念に思えた。
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