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グリーンティー
墓参りの翌日。
遥奈の頭には、白い向日葵と宏樹がちらついていた。大学の講義を受けていても、いつもより内容が頭に入ってこない。
午後になり、構内の木陰で昼食を取ったあとで、友人に尋ねた。
「藍ちゃん。男のひととは、なにを話せばいいと思う?」
「急にどうした」
遥奈の友人である篠宮藍が、遥奈の顔を覗きこんだ。彼女が髪につけている椿油の香りが、かすかに遥奈に伝わる。
藍は幾何学模様のワンピースを着ていた。行きつけの古着屋で買ったらしいが、七十年代ファッションなのか、八十年代ファッションなのか、ヴィンテージに疎い遥奈にはわからない。藍のボブヘアーに似合っているファッションだとはわかる。
「気になるひとでもできた?」
「気になるっていうか」
遥奈はアースカラーのパンツの上で、手をもじもじさせた。空っぽになった弁当箱は、膝に乗せたまま。
「勉強対象というか……。子供と接するときの参考になりそうな、優しそうなひとを見つけたの」
「どこで」
「花屋さん」
遥奈はしどろもどろに『花小箱』であった出来事を話した。花屋の店長の甥にあたる、宏樹との出会いを。
「男のひとだけど、花みたいに雰囲気が柔らかくて素敵だった。……私もあんな感じだったら、子供に好かれるんだろうな」
「はるな先生、実習での失敗、まだ引きずってるのね」
「ちょっとね」
遥奈は園児の冷めた顔を思い出した。
もういい。先生とは遊ばない――。そう言って、ある男の子は、教育実習生の遥奈から離れていった。いまひとつ好かれなかった。
「お盆まであと二週間。また花屋に行くし、あのひとにも会うかもしれない。……だからもうすこし、きちんと話せるようになりたい」
「でも相手が花屋の店員さんなら、お客さんとして話すだけで、十分じゃない? 『これください』『毎度あり』で会話が終わっても、大丈夫でしょうに」
「毎度ありなんて、花屋さんは使わない」
遥奈は「とにかく」と、場を仕切り直した。
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