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第2話 駆出し陰陽師と姉の詰問
「それで、季風。近頃、お勤めの調子はどうなのですか?」
許しを得て御簾の向こうに入った途端に、これだ。そう問うてくる姉の口調は、弟の近況を訊きたいという優しい口調ではない。ちんたらしていないでさっさと現状を報告しろ、と催促する、姉というよりは上司の言うようなそれだ。
「あ、近頃というのはやはり、その件で……」
もごもごと季風が問うと、姉は深くため息を吐いて見せた。
「つい五日ほど前の事ですよ? まだ十七だというのに、そのように覚えが悪いとはどれだけ弛んでいるのです」
別に、弛んでいるつもりは無い。職場でも弛んでいるなどと言われた事は無い。ただ単に、姉が近況を訊いてくる回数が多過ぎるだけではないか、と思う。……が、言わない。言い負かされるのは目に見えている。
「五日前に、廃れた九条の襤褸邸で育ちかけのがしゃどくろを調伏したところまでは聞きました。その後の五日間、一度文を寄越しただけで全く何も話しに来て頂けないから、わざわざこのようにお呼びしたのですよ?」
「あ、近況というのはやはり、小さな事一つたりとも漏らさず全て、という意味でしたか」
「この場合、他にどのような意味があるというのですか?」
取り付くしまもない。すると、姉は今までとは一変、何かを期待するような表情を作った。
「それで、どうなのですか? 何か面白そうな話は無いのですか? 折角あの陰陽寮の特殊部署で、あなたが陰陽師として働いているのです。たった五日しか間が無くとも、そろそろ何か、新しい話が舞い込んできた事でしょう? あなたがお勤めのさ中に文を寄越して私の意見を求めてきたのは、そういう事なのではないのですか?」
そう言う姉の目は、きらきらと輝いている。
これだ。こんな顔をされたら、例えいつもは暴君のような姉であっても、何か喜ばせてやりたくなってしまうではないか。
そんな想いを胸に秘め、季風は軽く苦笑した。
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