2.喧嘩は売られていないけど、気に食わないからお買い上げ

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2.喧嘩は売られていないけど、気に食わないからお買い上げ

 まあ、だからこそやっぱり賢輔には話しておいた方が良いか。 「賢輔。あのさ、俺が此処に入った理由とか色々なんだけど……」 「……嫌なら、言わなくて良い」  俺の表情が気まずそうな事に気が付いたみたいで、賢輔は気遣うような声色で俺から視線を逸らしながら言った。でも。 「いずれは分かる事だから言っておきたいんだ。実は俺」 「うわぁああっ!!」  言いかけた俺の台詞に、また悲鳴が被さった。  声の方を向いてみると、そこにはあのリーダーゴリラに襟首を掴まれてる体育館で見かけた新入生。  髪型も制服も普通で派手じゃないし、不良には見えない。 「俺にぶつかるとは良い度胸じゃねぇか、あぁ゛っ?」 「す、すみませんっ!」  半泣きの彼を取り囲んで威嚇するゴリラ、とその取り巻き達。  どうせあいつがわざとぶつかりに行ったに決まってる。それで難癖つけて、金を巻き上げるかサンドバックにするかってとこだろう。……いや、待て。 「賢輔、あの子の見た目について、どう思う?」 「目は大きい、顔も小さい、体つきは華奢というか細い。身長は……。お前何センチだ?」 「屈辱の160」 「あいつも大体それくらいに見える」 「……厄介から自衛できないんなら、私立行った方が良くないか?」 「そう言ってやるな、お前だって似たようなモノだろうが」 「俺は自衛できまーすー!」  つぶらな瞳をお持ちで顔がちっちゃくて、俺より背が低い。野郎の中では割と、可愛い容姿。  女性が少なくなった今、レイプ被害は男にとっても他人事じゃない。ましてや同姓婚解禁の時に法律があれこれ変わって、結婚は男女ともに17歳から可能になった。  レイプなんてされた既成事実は、婚期が早まったから今後に直ぐ様響く可能性もある。 「あいつさ、サンドバックじゃなくて公衆便所にされちゃうんじゃない?」 「だろうな、穴があれば男でも女でも関係無いご時世だからな」  互いに軽口を叩きながら、俺は木から体を起こして軽くストレッチ。  うんうん、今日も頑張ってね俺の脚。  そんでもって、視界の端に映る賢輔の固く握られた拳、憎々しげにゴリラを見つめる視線。  ……何を考えてるかは、大体分かってる。特に会話もないけど、俺達は揃って騒動に向かって歩き出していた。 「更紗、お前まで付き合うことはない」 「こう見えて割と戦えるほうだから安心してねー。賢輔こそ、歯向かったら確実に目付けられるけど……それでも?」 「俺だってそれなりに動けるから、対処はいくらでも出来る。あいつが理不尽な暴力を受けるよりはずっとマシだ。元から此処は不良校、その程度でビビっていたらこの先やっていけないだろうが」  俺の問い掛けにきっぱりと言い切った賢輔、横目で見る表情には迷いや嘘は感じられなかった。  凛々しいってこういうことを言うのか……。久しぶりにこんな清々しい奴見た、是非うちの『一派』に欲しい。 「そっか、まあ俺はそんな立派な正義感とかじゃなくてさ。チビだからってナメられてカモにされんのが、だいっきらいだからだけど。止められても、俺だって行くからな」 「……正直、一人だと心細い所だった。共闘、宜しく頼む」 「んじゃ、よろしくたのまれちゃおっかな。さっき言ったけど俺は殴る蹴る苦手だから、乱戦に持ち込んで相討ちさせる戦法。取り囲まれてからが俺の番だから、賢輔は一人一人しっかり潰してねん」  賢輔に下手くそなウインクをしてから、一気にスピードを上げて駆け出す。  急な加速にも賢輔は戸惑うことなく平然と付いてきた、これでも脚の速さは自慢なんですけど。 「分かったが、お前喧嘩慣れどころか場数踏んでるなっ!?」 「まあそりゃあ俺はっ」  人混みを突っ切って、校庭中央に到着。そのまま二人揃ってタイミングを合わせて地面を蹴り、加速の勢いを殺さないまま脚を振り上げた。  俺はジャンプ力があるからゴリラの頭に。賢輔はがら空きの胴に。  思いっきり。  二人して、飛び蹴りをお見舞いした。 「現鮫川一派の古株だからなっ!」  俺たちが蹴った方向に倒れていく、可哀想に不意打ちを喰らったゴリラ。流石に見た感じ重そうだったし、ブッ飛ばすまでは無理か。  俺は地面に着地する前にゴリラの手から吹き飛ばされた新入生君の手を咄嗟に掴んで、っと。二人揃って着地成功! 「危ないから、俺達の手の届く所に居て! 殴られそうになったらしゃがむか、頭突きかませ!」 「はっはい!」  見事にコンビネーションを成功させた賢輔と、パンッと音を立てて片手でハイタッチ。  ゴリラが倒れているのは俺たちから見て真正面、自然と取り巻き達もそっちに集まって俺たちの背後には誰も居ない。新入生君を隠すように背後へ匿う。  俺たちはゴリラを潰されて敵認定をしてきた、取り巻き達と対峙する。 「おい、更紗! さっきのアレ! 後で詳しく説明して貰うからな!」 「はっはー、そんな焦っちゃダメよん。多分これからもっと凄いことあるから!」  敢えて賢輔の方は見ないけど、良いリアクションしてくれるなー。いつもあいつらとかには、平然と流されておしまいってのが多いから。  まあそろそろお遊びも終わりにしないといけないか、敵さん方のイライラが凄いことになってる。あ、ゴリラが起き上がってきた。 「ざっけんなよてめぇらあぁああっ!」 「顔面に膝ぶちこんで鼻折らなかっただけ、感謝して欲しいんですけどもー」 「ぶっ潰してやらぁああっ!!」 「更紗に同感。先輩ご自身がつい先日まで中学生だった俺達に、無様にぶっ飛ばされたばかりですので。説得力は皆無ですね」  凄んでくるゴリラに満面の笑みで言い、舌を出してから某指を立てた。喚きたてるゴリラに対して、賢輔が冷静に止めを刺す。案外君もノリが良いのね、ケンちゃん。  煽るだけ煽ったから俺達を囲んでる奴等が一気に突っ込んできた、ざっと20人ってとこか。  俺と賢輔は握り拳をぶつけてから、殴り掛かってくる取り巻き達に向かって走り出す。  同級生とタッグで戦うのは初めてだけど、賢輔とは呼吸が合う感じでやり易い。何か楽しいなこれ。 「賢輔、溢れた奴等よろしく!」 「任せろ!」  大変ムカつく事に、チビでガタイも良くない俺に半分以上が群がってくる。毎回、こうなるから慣れたけど! 「俺に触れられるもんなら触れてみろよ、デカブツばーか!!!!」  奴等と俺の身長差は結構ある、だから必然的に下へ視線と拳が向かう。  俺だけに敵さん方の視線を集中させて、頭に血を昇らせてあげると目の前の仲間との連携は取れない。となると、俺がちょこまかちょこまか動けば。 「おらぁっ! ぐっ!」 「くたばれ! ……ってぇな! どこ見てやがる!!」  俺に向けた蹴りや拳が仲間の腹や下半身に当たり、体同士がぶつかることもある。  こうやって、徐々に体力奪って同士討ちが俺のやり方。  いつもなら、止めは俺の側にいる怖いお兄さん達がワンパン腹にぶちこんで終わりだけど、今日はいないから最後は俺の足払いで地面に寝そべっていただいて。  お疲れさまでしたー。    不良校での初戦、ちょっと不安だったけど全然余裕。  俺と賢輔はなるべく横一列になるようにして、背後に新入生君を置く。ラインディフェンス?って、形で応戦していた。  時々賢輔の喧嘩っぷりが見える。足技が得意みたいで、踵落としや膝蹴りで確実に一人一人沈めてる。……謙遜してたけど、中々強いじゃないか。 「こっちは八人くらい! 賢輔、順調?」 「俺は七人潰した! 後少しだな!」 「二人とも後ろからっ!!」  大分数も減ってきて賢輔に声を掛けるまで余裕がでてきたと思った所で、新入生君の切羽詰まったような悲鳴。  俺達は反射的に前に跳んだ、背後から殺気と荒い呼吸の音。  急いで振り向くと血走った目をしたゴリラが、俺達を背後から狙ってきていた。  けど、そのせいで俺達のピンチを救ってくれた新入生君との距離が離される。あいつの斜め後ろには新入生君が居るけど、ゴリラはこっちにしか意識が向いてないのは助かる。    まあ相手方も人数少なくなったし、そろそろかとは思ってたけど。  俺は軽く助走をつけてから、ゴリラの前に飛び出した。  
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