6.親父と俺と旦那候補彼氏の騒がしい夕食

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6.親父と俺と旦那候補彼氏の騒がしい夕食

   金井家の家事は分担制。俺と海が食事とか掃除、親父が洗濯とか食器の片付けとか。まあ色々互いに融通しながら助け合いの精神でやってるけど、この春からはちょっと勝手が違う。  海が作ったデザートのパンケーキを食いながら、びっしり書き込まれた壁際のカレンダーをフォークで指した。   「今週末から俺も『鮫の弦』のバイトシフト入るから、よろしくー」 「俺は朝の仕込みと、土日の厨房フル」  俺も高校生になったから、『鮫の弦』でアルバイトする事になっていた。海と青羽を筆頭に鮫川一派と呼ばれている奴等は大体が『鮫の弦』でバイトしてる。  不良校に通ってるからって素行がめちゃくちゃ悪いわけでもないし、喧嘩はするけど煙草も吸わないし。案外普通に学生してるもんだ。  でもって、俺も昔から店の方に荷物運ぶくらいの事はしてたけど、これからは時給が発生する仕事だ。   「僕が遥と話をする前に更紗のシフトが決まっていて、びっくりしたよ。裏方と展示物関係? って聞いてるよ」 「青葉が在庫管理とレジ回り統括してるだろ、それの関係から。あとはメニュー表の見直し、入口にあるメニュー写真の撮り直しとか。お店の掲示関係やらせてくれるって」    鮫川家で埃を被っていた一眼レフカメラと入門本を俺が見つけて、それを借りた事がそもそもの切っ掛け。  自分で勉強しつつ、店が暇な時に料理の写真を撮らせてもらってた。  今までの作成物を『鮫の弦』店長兼俺にとっては未来のお義父さんである遥さんに提出し、色々と話し合った結果。店内POP作成等のアルバイトとして採用されたわけだ。   「更紗は写真撮影やイラストを描く事が好きだから、それでアルバイトさせてもらえるってとても素敵な事だと思う。頑張ってね」 「素人がやる事だろうが、アルバイトだろうが関係ねえから。金貰って人様の店先の一角陣取る以上は……絶対に、生ぬるい事はしたくない。死に物狂いで『頑張る』さ」  親父はそんなつもりは無いだろうけど、ご近所仲良し特権で仕事させてもらうって取れる様な発言には俺の語気が荒くなる。  喧嘩売ってないし、怒ってもいない。ただ、勘違いはしてほしくないだけで。  親父はごめん、と軽く言ってから、目を細めた。 「……そういう所、紗綾にそっくりだよ。妥協しないというか、意固地というか……」 「見た目は親父、中身は母さん。俺は間違いなくあんたらの子だよ、親父」 「似て欲しい所も似なくて良い所も全部そっくりって評判だからね、僕としては嬉しいような何というか」 「はぁ……。更紗も覧司さんも。厄介な奴ばっか、引き寄せる所からして……そっくりじゃねえか」    軽口を叩く俺と親父に対して、海はわざとらしくため息を吐いて一言。  おう、なんだ喧嘩売ってんのかお前。 「つい先月、イケメンスーツの外人が迷ってるからと道案内。そのままホテルに連れ込まれそうになった親金魚」 「……うぅ」 「調子乗ってるイケメン御曹司の横っ面引っ叩いて、バラの花束でプロポーズされた子供金魚」 「う゛……」 「雨の日に濡れてる金髪イケメン不良に傘を渡して、飯食わせて懐かれた金魚親子」 「……ううぅ…………」 「う゛っ……」 「イケメンっつうか顔が良くて厄介な奴ばっか引き寄せる金魚の親子共、何か反論は?」 「ありません……」 「ねぇっす……」  訂正、喧嘩売りたくなるような事してるのは俺と親父の方でした。  俺も親父もお節介焼きでトラブルメーカーだから、それの尻拭いをして助けてくれてんのは一番近くにいる海。あと、鮫川家と青葉。  腕組みして俺達を睨んでくる海の威圧感が凄い、……厄介事引き起こしてるのは俺と親父だから仕方ないですね、はい。   「いい加減、自分たちが異様に厄介な奴引き寄せる体質って事自覚しやがれ」 「分かったよ、海!」 「返事だけは一人前だな」 「あ、ばれちゃった?」 「……それと、イケメンとヤバそうな野郎に近付くんじゃねぇ。このままじゃ誘拐されて、警察沙汰もあり得るだろうが注意力散漫金魚親子」    あはは、……耳が大変痛い。高校生になって色々と洒落にならない事は重々承知、今後は極力関わらないようにします! と宣言して俺は海の威圧感から解放された。  でもさぁ……実は俺にも言い分の一つや二つもあったりして。   「海の方はどうなわけ?」 「あ゛?」 「俺知ってるんだからな、お店に来た美人なお客様から頻繁にメアド書いた紙をいただいてるって」 「あれか」 「うん、それ。こっちばかり責められても困っちゃうよねぇ~?」  青葉からこっそりお話し聞いてたから知ってるんだよ。俺の事ばっかり責めるけど、海だって隠し事してるじゃねえか。  海の頬を指でツンツンと突きながら首を傾げてやると、めんどくさそうにそっぽを向いた。  思いっきり虐めてるけど、実は何となくオチは読めてたりして。   「いや、あれは受け取って、使った後」 「受け取って。……ん、使った後?」 「全部シュレッダーに突っ込んでる」 「……やっぱり、そんな事だと思った。でも、何で受け取った? それに使うってどういう事だよ。そもそも女の子に期待させちゃ可哀そうでしょ」 「更紗、怒らないか?」 「もう若干怒ってる。どうせ、俺絡みだろうが」    海の頬を左右に引っ張りつつ、顔を近づけて尋問。目が泳いでますわよダーリン。  と、ここで別の場所から声が上がった。   「あんまり海の事を責めてあげないで、更紗」 「親父、口挟むな」 「挟むよ。だって、今回の件については海じゃなくて遥の方で……」 「ひゃんひひゃん(覧司さん)」 「は? 遥さん? 鮫川父が何で?」 「最近鮫川兄弟に対してお見合いの申し出がどうしてか急増して、女の子がお店に沢山来るようになったんだって。その原因を調べるため、海を囮にさせているんだよ」    俺は海の頬から指を離してから、慌てて赤くなったそこを掌で撫でた。   「馬鹿! 何でそういう事、俺に言わないわけ!?」 「言えばお前、首突っ込んでくるだろ」 「当たり前!」 「だからだ。男だろうが女だろうが、そういう恋愛目的で来てるヤツの前に更紗を置いて堪るか。恋愛の切欠とか、一目惚れとか、そういう物は芽吹く前に俺が全部潰す。更紗は俺だけの更紗で居ろよ」  海と見つめあったまま、俺は固まった。  あの、その、全部潰すって言い方、その。   「…………、ななななな何だそれ!! 海、俺の事好き過ぎるでしょ!?」 「おう、好きに決まってるだろうが」 「あれ? 更紗、珍しく動揺してるね。何処かに胸キュンポイントでもあった?」 「多分『俺が全部潰す』の所だろ。不意打ちで強気な発言してやると、分かりやすく悦びやがって。更紗、犯すぞ」 「ピピー! お義父さんチェックです! 成人するまではエッチ禁止だからね!」 「挿入は、してない。まだ」 「挿入も、しちゃダメだよ!? あのさ、もう少し待てないかな……?」 「待てない」 「紗綾、高校生になった息子の貞操が早速ピンチです……」    漫才してる海と親父なんてとりあえず知った事か。俺は頭を抱えながら、机に突っ伏した。……大正解です、海の馬鹿野郎。さっきの発言すっっっっごく興奮した、ヤバい。  写真をちら見しても、母さんはいつもみたいに可愛らしく微笑んでいる。   「母さん、高校生になった息子は……旦那候補にダメにされちゃいそうです」 「……してやろうか、ダメに」    のしっと俺の背中に覆いかぶさってきた海が、低くて良い声で耳に息を吹きかけながら言うもんだから完全に撃沈した。  この、色気駄駄漏れ鮫め!   「あの……流石に僕も、息子同士の濡れ場は見たくないよ……?」 「見せるわけねぇだろ! おい、海。退け!」 「断る、この発情金魚」 「退けエロ鮫!」 「いやだね、挑発してきたのはお前だろ」 「疑ったのは謝るけど、親父の前だから退けってば!」 「二人共、夜だから静かにしてよぉ……」    改めまして、天国のお母さん。毎日毎日騒がしく、馬鹿みたいな事やって俺と親父と海はそこそこ楽しく過ごしています。  今日から高校生になりましたが、新しい友達も出来てより一層騒がしくなると思います。   「更紗も海も、煩いからもう寝なさい!」 「やだ! ムラムラしたから部屋で海といちゃつく!!」 「明日も学校あるだろうが。程々に可愛がってやるよ」 「二人共!!」    まあ、既にうるさいけど。    
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