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美鈴の背後、向こうへと彼が目線を馳せている。美鈴も振り返るが、そこに宗佑はいない。店だけが見え、弟は追ってきていない。
弟がここまで追ってきて必死に引き留めに来ない。そうしてくれる意味を姉としても感じ取ってしまう。
「弟には妻がいるので大丈夫です」
一人きりにするわけではない。そしてわかっていた。『きっと今晩、一晩だけ』。それが宗佑が許してくれた猶予だと思った。
その途端、彼に抱きしめられた。
「嘘だ、こんなの、嘘だ」
あなたが俺のそばにいるなんて。抱けるなんて。
男の泣きそうな声が耳元で響いた。
あの匂いのジャケット、その胸元に美鈴もしがみついた。
おいで。
彼に手を引かれ、港の道をゆく。どこへ連れて行かれるのか、なにも怖くなかった。
―◆・◆・◆・◆・◆―
弟と予測したとおり、彼の住まいはそんなに遠くはなかった。古い港町に入ったところにあった。
港が見渡せる古いマンションだった。ワンルームの片隅に、とりあえず設置してあるような簡易ベッド。そこで素肌になったふたりが固く抱き合う。
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