3492人が本棚に入れています
本棚に追加
美鈴も身構えた。厳ついその男はぎょろっとした大きな黒目に太めの眉、そして不精ヒゲでワイルドな顔つき。いつも眉間に皺を寄せていてどこを見ていても睨んでいるような顔にしか見えない。黒いスーツ姿ならばスマートなビジネスマンを連想したいが、彼の場合は……。
「うまくやりすごしてくれ、頼む」
「わかってる……」
厨房で調理に忙しい弟は接客ができない状態。こんな時、姉の美鈴がフロアに対して全ての責任を持つようになる。弟に信頼されて任されているから、きちんとしたい。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
いつもの笑顔で対応する。
男が黙って、店内を見渡す。繁盛していると言っても、空席はいつもあり満席なることはなく、彼も空いている二人用テーブルへと向かっていく。
いつものお水のコップを準備して、美鈴は彼のところへ向かう。
すでにメニューを開いている彼の前へ、そっとお水のコップを置いた。
「ご注文決まりましたらお呼びください」
「手鞠寿司ランチでお願いします」
メニューがすぐ決まるのもいつものこと。美鈴が来たらもう頼めるように選び終えている。
最初のコメントを投稿しよう!