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渋くて低い声。とても落ち着いた大人の男の声だった。それだけ聞けば、美鈴もうっとりしてしまう。ただし目をつむっていればの話だ。
「サラダバーのセットはいかがいたしますか」
「セットで、いつも通りでお願いします。食後は……、本日はアイスコーヒーで」
「かしこまりました。暑くなりましたものね」
思わず、いつもの調子で気軽にお客様に声をかけてしまった。
この厳つい彼には警戒をしていて、余計なことは言わないと決めていた。なのに、ついうっかり!
だからなのか、彼が座っているそこから珍しく、エプロン姿の美鈴を見上げた。
「そうですね。暑くなりましたね」
笑みもなにもない、ほんとうに入ってきた時のままの鋭い目線は恐ろしく、美鈴の身体は硬直する。でも語り口は柔らかで、優しい……。
きっと、インバウンドの入電で当たったお客様だったなら『落ち着いた大人の男性。こっちが安心しちゃう』とうっとりしながら対応できるお客様のイメージだった。でも、彼の風貌は……。ノーネクタイの白ワイシャツに黒いスーツ姿。厳つい顔。どうみても清潔感を必要とするビジネスマンではない。
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