1.刺青と傷跡

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 渋くて低い声。とても落ち着いた大人の男の声だった。それだけ聞けば、美鈴もうっとりしてしまう。ただし目をつむっていればの話だ。 「サラダバーのセットはいかがいたしますか」 「セットで、いつも通りでお願いします。食後は……、本日はアイスコーヒーで」 「かしこまりました。暑くなりましたものね」  思わず、いつもの調子で気軽にお客様に声をかけてしまった。  この厳つい彼には警戒をしていて、余計なことは言わないと決めていた。なのに、ついうっかり!  だからなのか、彼が座っているそこから珍しく、エプロン姿の美鈴を見上げた。 「そうですね。暑くなりましたね」  笑みもなにもない、ほんとうに入ってきた時のままの鋭い目線は恐ろしく、美鈴の身体は硬直する。でも語り口は柔らかで、優しい……。  きっと、インバウンドの入電で当たったお客様だったなら『落ち着いた大人の男性。こっちが安心しちゃう』とうっとりしながら対応できるお客様のイメージだった。でも、彼の風貌は……。ノーネクタイの白ワイシャツに黒いスーツ姿。厳つい顔。どうみても清潔感を必要とするビジネスマンではない。
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