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「あんな怖い顔して、甘いもの好きだよなー」
手が空いた弟がキッチンとフロアを仕切っているカウンターに出てきて、そっとひとこと呟いた。それは美鈴も感じていた。どの料理もよく眺めて、きちんと食べてくれる。そのうえ、デザートまで頼んでくれる。週に多くて三回も来てくれる彼。弟も怖がって警戒しているけれど、心の中では料理人としてのやり甲斐を特に感じているお客に違いない。
これからティータイム。女性客と休憩で入ってくるビジネスマンが主になってくる前に、彼がやっと席を立つ。
もうすぐ梅雨がやってくる蒸し暑い初夏のせいか、彼が初めて黒いジャケットを脱いで腕にかけレジにやってきた。
「ご馳走様でした」
「いつも、ありがとうございます」
精算をしておつりを渡そうとしたその時、彼がうっかり黒いジャケットを腕から滑り落としてしまう。
「大丈夫でしょうか。汚れませんでしたか」
「大丈夫です」
渋く低く落ち着いた声、決して慌てることもなさそうな落ち着いた動作だった。それに、ワイシャツをめくっているその腕、とっても筋肉質で逞しそう!?
「汚れたようでしたら、おっしゃってください。拭くものを持って参りますから」
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