7.ヒーロー、行方不明

4/11
前へ
/148ページ
次へ
「いえ、接客が丁寧で気が利く女性がいるとも聞いていましたので。なるほどと……思いまして……」  気が利くことなど、この男性にはまだ何もしていないのに『なるほど』? 美鈴は訝しむ。でもそんな美鈴の顔を見て、中年男性がどこかおかしそうにくすりとこぼした。 「また他の同僚を連れてきます」 「ありがとうございます。お待ちしております」  嬉しくなったのか、弟もキッチンから飛び出してきて、一緒にドアまで見送った。 「聞いた、宗佑」 「聞こえた。そう思ってくれてるのかな。まだ警戒して来てくれないだけなのかな」  宗佑の目に涙が滲んでいた。彼も死ぬような思いをしてたに違いない。子供のような大事な店が、悪い男たちに悪い薬物を持ち込まれ荒らされたことは、とても口惜しかったのだろう。 「いまの状態で、予想オーダー数を絞って抑えて、細々でもいいから維持して営業しよう」  弟の肩を撫でると、宗佑も涙を拭ってうんと頷き微笑んでくれた。 「ねえ、少しお金かかってしまうけど、この際、思い切って割り引きとかコーヒーとかデザートサービスのクーポン券をタウン情報誌に載せてもらおうよ」
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3492人が本棚に入れています
本棚に追加