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「いえ、接客が丁寧で気が利く女性がいるとも聞いていましたので。なるほどと……思いまして……」
気が利くことなど、この男性にはまだ何もしていないのに『なるほど』? 美鈴は訝しむ。でもそんな美鈴の顔を見て、中年男性がどこかおかしそうにくすりとこぼした。
「また他の同僚を連れてきます」
「ありがとうございます。お待ちしております」
嬉しくなったのか、弟もキッチンから飛び出してきて、一緒にドアまで見送った。
「聞いた、宗佑」
「聞こえた。そう思ってくれてるのかな。まだ警戒して来てくれないだけなのかな」
宗佑の目に涙が滲んでいた。彼も死ぬような思いをしてたに違いない。子供のような大事な店が、悪い男たちに悪い薬物を持ち込まれ荒らされたことは、とても口惜しかったのだろう。
「いまの状態で、予想オーダー数を絞って抑えて、細々でもいいから維持して営業しよう」
弟の肩を撫でると、宗佑も涙を拭ってうんと頷き微笑んでくれた。
「ねえ、少しお金かかってしまうけど、この際、思い切って割り引きとかコーヒーとかデザートサービスのクーポン券をタウン情報誌に載せてもらおうよ」
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