7.ヒーロー、行方不明

5/11
前へ
/148ページ
次へ
「そうだな。また来て欲しい人から使ってくれたらいいもんな」 「じゃあ、早速、手配について調べてみるね」  テキパキとカウンターの片隅にあるパソコンを立ち上げると、そこで弟も美鈴をじっと見つめている。 「ありがとな、姉ちゃん。姉ちゃんがいてくれてほんとよかった。それに……無事で、良かった」  思い出したくなくて美鈴からも言えなかったけれど、弟も姉が女性として嫌な思いをしたことも気遣って、いままでそっとしてくれていた。 「大丈夫だよ。私も宗佑が撃たれなくてよかった。なにかあったら、莉子ちゃんがひとりになっちゃうじゃない。そんなの絶対だめ」 「うん。でも俺、助けられなかった」  その後に続きそうな言葉に美鈴は身構える。そして宗佑もそこで黙り込んだ。  あの人が来てくれたおかげで助かった。タイミングよく警察が来てくれたけれど、もし警察への通報が遅かったら、あの人を頼るしかなかっただろう。  でも弟はその先を言わない。言いたくないのだと思った。美鈴も言えない。あの人のおかげと姉弟で喜べないのは、あの人も、この店を荒らし悪行を働いた男達とおなじ世界にいる『ヤクザ』だからだ。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3491人が本棚に入れています
本棚に追加