7.ヒーロー、行方不明

6/11
前へ
/148ページ
次へ
 腕だけではなく、肩から胸に描かれた刺青も見てしまった。拳銃も持っていた。警官が突入したら逃げた。間違いなく、彼はヤクザなのだ。捕まった男達と対抗する組織の男だったのかもしれない。  刑事から知っている男かと聞かれたから『常連だった』としか答えていない。それ以降も、どのような男だと判明したとか、見つかったとか、逮捕したとかの報告もない。  それだけ迅速に手際よく彼は逃走することができたのだろう。 「忘れよう、宗佑。お店のことだけいまは考えよう」  姉からあの彼のことを口にしない意志をみせたので、宗佑も『わかっている、そうする』とそれ以上話題を引き延ばそうとしなかった。  その夜、いままで見たことがない女性客がふたり、来店があった。華やかなOLさんという雰囲気ではない、ちょっとお堅いスーツ姿の女性がふたり。はしゃぐような喋り方もせず、淡々と食事をして精算をしていった。  その翌日もランチには男性の二人組が、一組、二組と違う時間に入ってきた。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3491人が本棚に入れています
本棚に追加