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「お気遣いありがとうございます。着古している仕事着なのでなんてことはないです」
その腕を伸ばして彼がジャケットを拾おうとして……。美鈴はハッとする。
腕を伸ばすことで捲った袖口が上へとずれたその時、ちらっと見えたのは赤や緑そして青色や黒の……絵模様? そして長さがある傷跡がある。
青ざめた。思わず、そこに控えていた弟を見ると、宗佑も気がついたのか呆然としている。
彼は気がつかず、そのままジャケットを拾い腕にかけ直した。
「あの……?」
立ち上がってもおつりを握ったままの美鈴を見て、彼が訝しそうにしている。我に返り、美鈴は彼の手におつりを手渡す。その手が震えないよう、精一杯、いつもどおりを意識して。
「ありがとうございました。お気をつけて――」
弟と一緒に、ランチタイム最後のお客様を見送った。店内に誰もいなくなる。
「姉ちゃん、見たか、さっきのあの人の腕」
「う、うん……。でも、はっきりと見えたわけじゃないし」
「んなわけないだろ。あれ刺青だろ! うわー、やっぱりそうだったんだ! 言葉遣いが紳士的だけれど、イマドキのヤクザさんはきっとそうなんだ! うわーー!」
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