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美鈴の背中から、宗佑の張りのある声が店内に響いた。
男も微笑みを消した。憂う眼差しだけが残る。哀しそうなその顔に、美鈴は、今夜、彼から『お別れに来たんだ』と悟った。
「ご迷惑をかけたので詫びに参りました」
「迷惑などかけていません。むしろ……、姉を助けてくださってありがとうございました」
美鈴が先にしたかったのに、コックコート姿の宗佑が深々と頭を下げていた。
「無事で良かったです。あの男たちが出入りしているのを見てしまったので、もしやと思って警戒していました」
「感謝しています。本当は……また食べて頂きたいです。ですが、ご遠慮ください。お願いします。あのような組織の客を引き入れてしまい店は打撃を受けました。あなたは、あの男たちに関わっているかもしれないのですよね」
警察からも彼についての報告は一切なかった。そして、彼はヤクザたちにもそうだったように、なにも答えてくれない。
それでも宗佑の腹は決まっていたのだろう。容赦ない店長からの通告が告げられる。
「残念ですが、二度と、うちには来ないでください」
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