8.シュガーブルーの夜

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 お願いします。頭を深々と下げるその姿が、宗佑の心苦しさを表していた。弟にとって、いちばんの常連客だった。自分の料理を愛してくれる人だった。その人を、身分ひとつで切り捨てる店長の決断。その苦さはいかほどか。美鈴にもその苦々しさが通じてくる。 「わかっています。そう思って最後に……、図々しく、あと一度だけ、マスターの手料理を食いたかった。それだけだったんです。覚悟もしていました」  警察に追われているのに、弟の料理に別れを告げに来た。それがわかった宗佑が顔を上げると、一瞬の迷いを見せていた。やっぱりこれからも食べてもらいたいという料理人の気持ちが顕著に顔に出ていたが、でも宗佑が選んだのは涙を呑んで、彼を見送ること。経営者としての決断、言い放った通告は取り消さなかった。 「お姉さんもお元気で。ご姉弟でどうぞ頑張ってください。影ながら応援していますから」  男も一礼をしてくれた。そのまますぐに身を翻し、ガラス戸を開け出て行ってしまった。 「うそ、なんで来たの」  いまの弟とのやりとりを黙って見ていたのに。美鈴はいま正気になったようにして呟いた。 「いや……。待って……」
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