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「お客さん、戻ってきたようで安心しました。もともと、あなたと弟さんがつくり出す爽やかな匂いと温かな空気はどなたにも伝わっていたのでしょう。これからも大丈夫ですよ」
事件後も見守ってくれていた? この人がどんな人かなんて、もう……。美鈴は彼の目の前でうつむき、そっと呟く。
「どうしたらいいのですか。私、困ります」
彼が首を傾げる。
「どういう意味で?」
「どうしたらいいかわからなくて……、これが最後だなんて」
頬から熱い涙が流れた。
「これが最後だなんて、いや!」
彼がとてつもなく驚き、息引いた様子が美鈴にも伝わってきた。
美鈴も涙をこぼす目で、彼を見上げた。
「自分はこんな男ですよ。どんな男かわかったでしょう」
「わかっています。でも、……いや、行かないで」
あの厳つい彼が、頬を染めたようにして目を見開き、そのまま黙っている。
港の波の音がしばらく二人の間で聞こえるだけ。
やがて、彼が肩の力を抜いてふっと笑った。
「いま、一緒に来られますか」
「行きます」
即答にも厳つい彼が面食らっている。
「弟さんが……」
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