8.シュガーブルーの夜

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 美鈴の背後、向こうへと彼が目線を馳せている。美鈴も振り返るが、そこに宗佑はいない。店だけが見え、弟は追ってきていない。  弟がここまで追ってきて必死に引き留めに来ない。そうしてくれる意味を姉としても感じ取ってしまう。 「弟には妻がいるので大丈夫です」  一人きりにするわけではない。そしてわかっていた。『きっと今晩、一晩だけ』。それが宗佑が許してくれた猶予だと思った。  その途端、彼に抱きしめられた。 「嘘だ、こんなの、嘘だ」  あなたが俺のそばにいるなんて。抱けるなんて。  男の泣きそうな声が耳元で響いた。  あの匂いのジャケット、その胸元に美鈴もしがみついた。  おいで。  彼に手を引かれ、港の道をゆく。どこへ連れて行かれるのか、なにも怖くなかった。  ―◆・◆・◆・◆・◆―  弟と予測したとおり、彼の住まいはそんなに遠くはなかった。古い港町に入ったところにあった。  港が見渡せる古いマンションだった。ワンルームの片隅に、とりあえず設置してあるような簡易ベッド。そこで素肌になったふたりが固く抱き合う。
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