1.刺青と傷跡

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 コックコート姿の弟が黒髪をかきむしって取り乱した。俺がやっと独立した店にヤクザが来た、ヤクザが常連になっちゃったと、お客様がいないのをいいことに大騒ぎ。 「どうしよう、姉ちゃん、やっぱり出入り禁止にしたほうがいいのかな」 「やめなさいよ。まだはっきりとわかったわけではないし、なんの問題も起こしていないのだから。いいお客様じゃない。なんでも美味しそうに綺麗に食べてくれて、週に三回も来てくれるんだよ」 「わかっているよ……。俺だって……」  あの人ほど通ってくれて、あの人ほど美味しそうに残さず食べてくれて、自分の料理を気に入ってくれている人はいない。料理人としての喜びと、やっと手に入れた自分の城を守るオーナーとしての気持ちがせめぎあっているようだった。
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