8.シュガーブルーの夜

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 厳つい顔で店に来て、眉間に皺を寄せて険しさを身体一杯に漂わせて、なのに、品の良い言葉遣いに、優しさを含めたその黒目。 「私、あなたのこと信じてる」  刺青がある全裸で迷っている男に囁いた。  彼がまた、美鈴を申し訳なさそうに見る。 「あなたがどんな人でも、私、あなたのことは信じている。だから、ここまで来たんだもの」 「美鈴、さん……」  優しい声が美鈴の胸を切なくかき乱す。 「教えて、あなたの名前」  彼が美鈴の目線まで戻ってくる。肩から胸元に描かれている寅の顔と流れる風の模様、そんな彼の両肩に美鈴も触れる。寅なんて、彼にぴったりのような気さえしてくる。 「名も知らない男にこんなにされて……」  ほどいて乱れた黒髪を彼が撫でてくれる。美鈴の目を見つめて、彼が呟く。 「たける、です」 「タケルさん」  名字まで教えてくれなかった。それでもいい。これであなたのこと呼べる。 「タケルさんのこと信じてるの。だから、私のことも信じて……。もう怖くないの、お願い」  自分からこんなねだってしまうだなんて。彼の皮膚に住まう寅にもキスをして……。あなたにもキスをして。
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