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9.マリンブルーの日々
彼が冷たいミネラルウォーターをシンプルなコップに入れて、ベッドまで持ってきてくれる。
トラの尻尾が見える背中、裸のまま窓辺に行った彼が、少しだけ窓を空かしてくれる。
「クーラーがなくて申し訳ない」
タオルケットにくるまっている美鈴がいるベッドに戻ってきてくれる。
「ここにずっと住んでいるわけではなさそう……」
見るからに仮住まい。なにもかも簡単なものしかなく、家具はベッドとダイニングテーブルぐらいだった。
そして彼はやっぱり答えてくれない。
ベッドの下に脱いだ時に放ってしまったエプロンを彼が拾った。
「ほんとうに、なにも持たずに……。俺のところに」
呆れたような溜め息を落としつつも、彼の目元が嬉しそうに緩んでいるのを見てしまう。
彼を追いかけてそのまま。所持品はポケットにたまたま入っていたスマートフォンだけ。ほんとうに身ひとつで、俺を追ってきた――。きっとそう気がついてくれたのだろう。
「弟さん、心配しているんじゃないかな」
彼が我に返ったようにして、美鈴のポケットに入ったままの電話をみつめている。でも決して手に取らない。美鈴も取らなかった。
「ちゃんと帰りますから」
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