肆 足並み揃えて

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肆 足並み揃えて

 雨影夕(あまかげせき)咫々祠音(たたしおん)晴鴉希命(はるあけのみこと)の神力は不安定な状態にある。堕ちる前の全盛期には及ばないものの、神として存在し、神通力を行使することは十分に可能である。しかし、長い間抜け落ちていたため取り戻した神力が体に馴染んでいないのだという。  時間が経てば次第に馴染み、また、徐々に全盛期に近いくらいの強さまで神力が回復するだろうと紫苑は言っていたが、それまでは力を使い過ぎない方がいいだろう。  そう考えていたはずなのだ。分かっていたはずなのだ、俺は。  机の上で眠る夕立の翼をそっと撫でる。  公園のベンチで簡単な昼食を済ませ、俺は一度紫苑のことを叩き起こした。夕立の姿になってもらい、それを水で冷やしたタオルで包んで、ビニール袋に入れて家まで持ち帰ってきた。何かあった時に役に立つかもしれないとリュックに常備していたビニール袋が本当に役に立つ機会が来るとは思っていなかった。  保冷材の上に座り、扇風機の風を浴びながら夕立は眠っている。  神様だって疲れるし、弱るし、熱中症にもなるのだ。神様だから大丈夫、神様だからなんでもできるだなんて考えてはいけない。目の前にいるのは神様という名の漠然とした存在ではなく、雨影夕(あまかげせき)咫々祠音(たたしおん)晴鴉希命(はるあけのみこと)という一個神(こじん)なのだ。 「今日はゆっくり休んでくれ、紫苑」  朝、目を覚ますと恐ろしいほど美しい顔が目の前にあった。 「うわ」 「おはようございます、晃一さん」  紫苑は穏やかに微笑む。ぐったりとしていた昨日の姿が嘘のようである。体調は崩すものの、快復は常人よりも早いのだろう。元気になったということをアピールしたいのかもしれないが、その顔面をあまり近付けないでほしい。おまえはもう少し己の顔の良さを自覚してくれ。朝から衝撃が強すぎる。  俺が起き上がったのを確認すると、紫苑は改めて「おはようございます」と挨拶をした。 「うん、おはよう。具合よさそうだな」 「えぇ、もうすっかり。ありがとうございます、晃一さん。そして、ご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした」 「謝らなくていいよ。謝るのは、俺の方だから」  俺がそう言うと、紫苑は少し驚いた様子だった。きょとんとして、俺を見つめる。鳩が豆鉄砲を喰らったようだ、とはよく言うが、カラスの場合はどのように表現すればいいのだろう。  俺はベッドの上に正座する。 「おまえが本調子じゃないことは分かっていたんだ。それなのに、おまえを頼りすぎてしまった。その所為でおまえは倒れてしまって……。すまない、紫苑様」 「晃一さん……。いえ、そんな。私は……私がやりたくてやったことですから。貴方を手助けしようと、貴方のお役に立とうと、そう思って行動したのは私自身です。自分の体のことを一番分かっていたのは自分なのです。少し、張り切り過ぎてしまったようですね。貴方が気に病むことではありません。ですが、以後気を付けます。貴方にご迷惑をおかけしないように」 「あぁ、えっと、そうじゃなくて。そうなんだけど」  寝起きの頭を強引に回転させる。寝惚けておかしなことを言わないように気を付けなければ。深呼吸をして、紫苑に言うべき言葉を構築する。
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